中学1年生 夏
申し訳ありませんが、二日おきの更新に切り替えさせていただきます。
その分一話ごとの文量を少しだけ増やす予定です。
今後とも拙作を宜しくお願い致します。
HRが終わり、生徒達は各々の行動を始める。
テニスラケットの入ったバッグを抱えて教室を出る人もいれば、楽譜を見ながら小さく鼻歌を歌っている人もいた。
あの楽譜を持っている生徒は吹奏楽部に所属しており、確か今日の部活でテストが行われると言っていた。
また、生徒会役員の男子は何かやらかしたらしく、先生に怒られるのではないかと怯えながら生徒会室へ向い、部活等に所属していない帰宅部の女子は軽い足取りで帰宅している。
同じく帰宅部の俺は、普通にスクールバッグだけ持って教室を出た。
すると、ちょうど隣の教室から出ていた女子生徒がこちらに気付いて近寄ってくる。
「お疲れ様、優斗。もう帰るの?」
「うん。綺音は部活だよね。」
「そうよ。そこまで一緒に行きましょう。」
「あいよー。」
水泳部の綺音と一緒に階段へ向かう。
昇降口へ向かう俺は下へ、屋上のプールへ向かう綺音は上へ行く。
「綺音、ちょっと日に焼けたね。」
「そうなのよねぇ。スクールのプールと違って屋外だから仕方ないけど……焼けてるの、優斗は嫌い?」
何でもなさそうな表情を取り繕っているが、こちらの反応を気にしているのは丸わかりだった。
俺は苦笑しつつ首を振る。
「そんな事ないよ。スポーツ選手が日焼けしてるのは頑張ってる証拠じゃないか。それに、綺音は肌が綺麗だから、全然気にならないよ。」
「ふぅん…そう。」
本人は真顔のつもりだろうが、口角がピクピク上がってる。
ニヤけるのを我慢してるみたいだ。
「期末考査も近付いてきたけど、部活はいつから休みに入るの?」
「今週までで一旦終わりよ。来週から試験休みに入るわ。」
「てことは試験まで1週間以上は時間があるわけか。」
「そうなるわね。優斗は試験勉強進んでる?」
「ぼちぼちかな。焦るほど困ってもいないしね。」
前世の記憶があるから、日々の勉強も復習みたいなとこあるしな。
ところどころ忘れててナニコレ状態になるけど、理解する素地はあるから勉強にはそれほど苦労していない。
「綺音も結構余裕あるんじゃない?」
「勉強はいつもしているもの。」
真面目な綺音らしいな。
凛にも是非見習ってほしい。
「……でも、初めての定期考査だし、下手な点数は取りたくないっていうか。」
何でソワソワしてるんだろ。
もう階段着いちゃったぞ。
「水泳部の先生も赤点は許さないって言ってたし。お父さんとかお母さんからも期待されてるし。」
「えっと………頑張ってね?」
「バカ。アホ。」
ひっでぇ。
やけに頑張らなきゃアピールするから応援してほしいのかと思ったんだが。
「……一緒に勉強しようくらい言いなさいよ。」
頬を染めてそっぽを向く綺音。
いや、普通に綺音が誘えば良くない?
と思うが、拗ねる綺音が可愛いので突っ込みません。
「一緒に勉強しようか。わからないところとか教えあえるし。」
「そ、そうね。優斗がどーしてもって言うなら良いわよ!」
綺音の表情が一瞬でパァッと明るくなった。
可愛ええのぅ……
「なら、詳しい事はまた話そう。早く行かないと練習に遅れるよ。」
「そうね、もう行くわ。じゃあね優斗。」
「それじゃ。練習頑張れ。」
笑顔の綺音に手を振り、俺は帰宅した。
中学校に入学して3ヶ月。
残念ながら別のクラスとなってしまった綺音とは、未だに仲良くできている。
というか朝は一緒に登校している為、クラスが別でも毎日顔を合わせていた。
部活に入らなかった俺と違って綺音は水泳部に入った。
てっきりスイミングスクールがあるから部活には入らないと思っていたのだが、綺音はスクールの先生の勧めもあって、部活とスクールを両立する事にしたそうだ。
大変そうだが、綺音は楽しそうに練習している。
また、中学生となって男子が急に色気づいたのか、綺音はよく告白されているようだった。
しかも先輩からも告白されたりしているそうた。
全て断っているらしいけど。
俺は文化系の部活に入ろうと思っていたのだが、この学校は文化系の部活が少なく、惹かれる部活が無かったのだ。
あと、家事をする時間も欲しかったからな。
母さんはそんな事気にしなくて良いと言っていたが、せめて凛が中学生になるまでは色々と世話を焼いてあげたかった。
ちなみに、俺も綺音と同じように何度か告白されたりした。
前世でモテなかった俺はその場でスキップしたくなるくらい嬉しいのだが、高揚する心を抑制してにっこりスマイルでお断りしている。
凛は小学6年生となり、苦手な勉強に苦しみながらもなんとか頑張っている。
相変わらず仲の良い美緒と一緒にバスケに励んでいる。
互いにクラブのレギュラーとなり、美緒はリーダーとして、凛はムードメーカーとして活躍しているそうだ。
何度か試合を観戦した事があるが、試合の時の凛は人が違うようにカッコよく見えた。
凛は以前と比べるとべったり引っ付いてこなくなった。
ちょっと寂しい気もする……というかめちゃくちゃ寂しいが、これも大人になるという事なんだろう。
放課後もバスケの練習のない日は毎日のように遊びに出掛けている。
友達が多いようで何よりだ。
姉さんは高校生となって益々綺麗になった。
高校でも入学して数ヶ月で何度か告白もされているらしい。
そして、告白される度に帰ってきてそれを俺に話しては、口づけをねだるのだ。
嫉妬してほしいのか、信用してほしいのか。
ともかく、2人の時は以前よりストレートに好意を表現するようになった姉さんが可愛すぎて、俺は理性を抑えるのに必死だ。
ピアノの練習もずっと続けており、姉さん自身は将来ピアニストになる気満々のようだ。
母さんは姉さんの自主性を重んじるようで、俺や凛も応援している。
クールな美人ピアニスト、とかっていつか有名になるかもしれないな。
母さんは会社で昇進したらしく、以前より時間を取りやすくなったようだ。
仕事が減ったというわけではなく、種類が変わったという感じだろうか。
実務より人や時間のマネジメントをする事が増えたそうだ。
退社も前より早くなって、凛や姉さんも喜んでいる。
その母さんがたまに風呂上がりの俺の下半身を見ている気がして、何とも言えない気分になる事がある。
嫌ではないのだが、気恥ずかしい感じ。
それがどういう意味の視線なのかはわからないが、昨年の旅行での出来事を思い出して、内心アタフタしてしまうのであった。
美緒とはたまに2人で映画を観に行くようになった。
昨年の夏、一緒に映画を観てから美緒はアクション映画に興味を持ったらしく、俺にオススメの映画を聞いてきたりした。
そして俺が勧めた映画を美緒が見て、2人で感想などを語り合ったりしている間に、面白そうなアクション映画が公開されたら2人で観に行こうという事になったのだ。
また、美緒は料理…というかお菓子作りができるようになりたいらしく、たまに家に遊びにきては俺が教えながら一緒に作ったりしている。
絶望的に才能のない凛と違ってなかなか素質がありそうだ。
武とはクラスは別だが、相変わらずよく遊んでいる。
あいつも俺と同じで部活には入らなかった。
完全に相撲の道へ進む事を決意したらしく、中学を卒業したら相撲部屋に入り、新弟子検査なるものを受ける予定なのだそうだ。
ある意味では1番将来を見据えている奴である。
俺と武が2人で並んで歩いていると、何故か先輩でも道を開けてくれる。
入学直後に上級生のなりヤンに絡まれた時に、軽く教育してあげたのが原因だろうか。
教師にはバレていないはずだが、どうやら生徒の間では一時期噂されていたようだった。
毎朝綺音と登校し、放課後は武と遊んだり空手に励んだりする。
家では凛に勉強を教えたり、やけに艶っぽくなった母さんにドギマギしたり、姉さんと隠れていちゃついたりしている。
そして休日には美緒とお菓子を作ったり映画を観に行ったりもする。
もちろん綺音や武と遊んだり、家族で出かけたりもしている。
中学1年生の夏、俺はそんな感じの日々を過ごしていた。




