とある夏の日 家族旅行編 2日目 母子
息抜きで新作書きました。
数話で終わる予定です。
宜しければご一読下さい。
『お前らが馬鹿みたいに魔力使いまくるからこっちは『魔力譲渡』でサポートしてたのに、必要なくなったから追放するってどういう事だよ。こうなったら実は鍛えまくってた無尽蔵魔力で成り上がって後悔させてやる。
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ゴシゴシ…ゴシゴシ…
「……ユウ、どう?」
「もう少し強くできる?」
「…ん。」
ゴシゴシゴシ…ゴシゴシゴシ…
「気持ち良い…」
「…ん。」
何となく嬉しそうな声だった。
ただいま、家族風呂にて姉さんに背中を洗っていただいております。
一生懸命擦っていただけるのは嬉しいですが、たまに息が首筋に当たってくすぐったいです。
あと変な気分になるからやめて。
「姉さん、そろそろ終わりで良いよ。ありがとう。」
「…もうちょっと。」
「あいよー。」
ゴシゴシゴシ…ゴシゴシゴシ…
「…流す。」
「あいよー。」
「…終わり。」
「あいよー。」
「…次、前。」
「あいよー……じゃない!前はもう洗ったから!」
「……無念。」
残念そうな顔で口を尖らせる。
可愛いけどやめて。
それは流石に駄目だから。
「さぁ、次はお母さんねぇ。」
ウズウズしていた母さんが姉さんと入れ替わりで後ろに座った。
「んっ…しょっ……んぅ……ふぅ……」
母さんが俺の腕を洗う。
俺は片腕を水平に上げて、まるで手信号で右折を告げるような格好になっている。
母さんの吐息が首筋や耳に当たってやばいんだが。
どれくらいやばいかっていうとやばいという言葉しか思い浮かばないくらいやばい。
「…ふっ…んっ……ぅん…しょっ……」
「ちょっ!?」
俺の伸ばし方が悪かったのだろうか。
母さんが腕の先の方を洗おうと手を伸ばしたのだが、その時に俺の背中にピッタリとくっつくようになってしまった。
ピッタリというかむにゅって感じ。
「ふっ…んっ……」
しかし母さんは気付かない様子で集中して洗ってくれている。
早く言わねば…しかしこの感触を手放すのか…と悩んでいたところで、母さんの体が離れた。
「あっ……」
終わってしまった……いや、そうじゃないだろ。
「?どうかしたのぉ?」
「何でもない…何でもないんだよ……」
俺ってやつは……
「そぉ?…なら、次は左手ね。」
「え、あ……うん。」
そうだ、そういえば俺には両手があるじゃないか。
今度こそ注意しよう。
そうしよう。
「ふぅ…それじゃ、流すわよぉ。」
「うん……ありがとう、母さん。」
「??」
項垂れた俺に首を傾げながら、母さんがお湯をかけた。
結局、あの素晴らしい感触をもう一度堪能してしまった。
俺はなんと罪深い子どもなのか。
「ゆうくん、大丈夫?」
「…大丈夫だよ。」
いっそ開き直ってしまおうか。
あんなに素晴らしいものを不用心にくっつけるのが悪い、と。
うん、それが良い。
そうしよう。
「さぁ、お湯に浸かろうか。」
俺は心中の罪悪感を押し殺し、湯船に足を入れた。
湯の中にタオルを入れないのはマナーだが、この場合は許してほしい。
どうせ家族しかいないし。
だから皆、タオルを取らないでそのまま入って下さい。
カポーン。
「あぁ……気持ち良いなぁ…」
「そうねぇ……」
「……んぅ」
「うひぃ…とろけるぅ……」
凛だけなんか違う気がする。
まぁ良いか。
風呂の癒され方は人それぞれで。
「あーぁ……もう旅行も明日で終わりかぁ。」
凛が名残惜しそうに言った。
「あっという間ねぇ。」
「…まぁ、また皆で旅行行こうよ。」
「……まだ、明日がある。」
姉さん…いや、そりゃそうなんだけどね。
今のは何となく惜しむ雰囲気だったじゃん。
「今度は冬に行きたいわねぇ。温泉とか良いんじゃないかしら。」
「良いね。九州とかどう?別府とか湯布院とか指宿とか、有名な温泉地がいっぱいだけど。」
「九州!?福岡行きたーい!」
美緒の出身地だからだよね、それ。
申し訳ないけど福岡にはあまり温泉のイメージないなぁ。
ない事はないんだろうけど。
「……五島。」
それ姉さんが前に見てたアニメの影響だよね絶対。
急に半紙を広げて墨を擦りだした時は何事かと思ったよ。
「はるちゃんとゆうくんとりんちゃんと一緒なら、きっとどこに行っても楽しいわぁ。」
「…そうだね。俺も母さん達と一緒で楽しいよ。」
「…ん。」
「えへへへ…」
姉さんは無表情で頷き、凛は何故か照れてる。
変わらないね、皆。
たわいもない話で談笑すること5分。
「うぅ…もう出る…」
凛がのぼせたようで、ヨロヨロと立ち上がった。
「大丈夫か、凛。」
一緒に上がろうとしたが、姉さんが先に立ち上がって凛を支え、首を振った。
「…ユウは、まだ入ってて、良い。」
「え、でも…」
「……凛に、服着せる?」
「よろしくお願いします。」
そうなる可能性もあったか。
まだ入っていたい気持ちもあった為、素直に姉さんに譲った。
2人が浴室から出ていく。
母さんと2人になった。
……見えないように、背を向けておこう。
「……ねぇ、ゆうくん。」
「ん、何?」
「はるちゃんと、何かあった?」
「えっ」
な、なんで急に。
何かボロ出したか?
思わず振り向きたくなるのを我慢した。
「何だか朝から2人の様子がおかしかった気がして……」
「あー…昨日の夜ちょっと色々話しててね。でも安心して、喧嘩とかしてないから。」
「そぉ……まぁ、何もないなら良いんだけど。ゆうくん達も大きくなって、お母さんに話したくない事もあるでしょうしねぇ。」
話したくないというか話せないというか。
少なくとも今はね。
「でも、何となくはるちゃんがすっきりしたような顔してたから気になっちゃって。ごめんねぇ。」
「いや、気にしないでよ。」
鋭いぞ、母さん。
「……ゆうくんには、昔から助けられてばかりねぇ。」
「……そう?」
「はるちゃんやりんちゃんが困っていたら必ずゆうくんが助けてくれてるし、とっても良い子で賢いから心配させる事もないし。」
俺はただ、自分にできる事をしているだけだ。
母さん達が心の隙を作らないよう、フォローしてるだけ。
皆を寝取られたくないという、俺の我儘だ。
「お母さんもゆうくんにはずっと助けられてるわぁ。家事もずっと手伝ってくれてるお陰で仕事に集中できるのよ。それに………あの人が亡くなった時も、私を支えてくれた。」
「あっ……」
母さんが"私"というのを、久しぶりに聞いた気がした。
「ゆうくん……いつも、ありがとう。大好きよ。」
母さんが後ろから抱きついてきた。
おそろしく柔らかな感触。
首筋にかかる吐息。
前に回された手のスベスベな白い肌。
これは……いかん。
「あ、ありがとう母さん。俺も大好きだよ。てことで俺ものぼせそうだから、先に上がるね。」
捲し立てるように言い、母さんから離れて立ち上がった。
努めて冷静を装ったが、内心の動揺は全く隠しきれていなかった。
だからだろう。
立ち上がると同時に、お湯の重さで腰に巻いていたタオルが解けてしまった。
「えっ」
そこで慌てた俺は、こともあろうに沈みそうなタオルを拾おうと、後ろを振り向いてしまったのだ。
ついさっきまで母さんは俺を背中から抱きしめていた。
その母さんの前にいた俺が立ち上がって後ろを向くとどうなるか。
「ふぇっ」
「あっ」
「っ!?」
「ご、ごめん!!」
自分でも驚く程のスピードでタオルを拾い、隠しながら急いで浴室を出た。
蒸気から逃れて冷気が心地良い…はずなのに、動悸は全く収まらなかった。
せめて……せめて通常時だったら……
何でよりにもよって臨戦態勢(意味深)なんだよ!
……母さん、気味悪がってないと良いけど。
ドキドキドキドキ
「………お、おっきいのね…」




