幼馴染との邂逅
「あきらくん見っけ。」
「うわーみつかったー!」
滑り台の影にツンツン頭の子どもを見つけた。
これで残るは1人。
そいつを見つければかくれんぼも終了だ。
「あと探してないところは……」
園庭を見渡す。
ひとまず隠れられそうなところは全部探したはずだ。
残るは建物の影になる裏の方か。
俺は最後の1人を見つける為にそちらに足を向けた。
「さてさて……おっ、人の気配が。」
先生の目を盗み裏に入ると、子どもの話し声が聞こえてきた。
こっそりと近付いて壁に張り付く。
角を曲がったところに人がいるようだった。
「……聞き覚えのない声だな。はずれか。」
どうやら俺が探している子ではなかったらしい。
だがこの子達は何故こんなところにいるのだろう。
ふと気になって聞き耳を立てた。
「…なにそのかみ、きもちわるー。」
「きもちわるー。」
「うっ…き、きもちわるくないもん!」
「だってへんだよ。」
「そうそう!」
「へんじゃないもん!おかあさんがしてくれたんだもん!」
「うわー、きもちわるーい!きもいわるーい!」
「ぶーす!ぶーす!」
「う…うぅ……」
「あ、ないたー!」
「ほんとだ、ないたー!」
「うえぇぇぇぇ」
………何だこれ?
男の子2人が女の子を虐めてるのは何となくわかるが……ぶーす?……あ、ブスか。
それにしても酷いな。
昨今の幼稚園児はこんな風に虐めるのか。
放っておくのも可哀想だ。
俺は角から姿を現した。
「おい、そこで何してるんだ?」
すると壁に背を預けてポロポロと涙を流している女の子と、それを囲むように立って笑っている男の子2人がこちらを向いた。
「なんだおまえー?」
「だれ?」
「ひっく…ひっく……うぇ?」
明らかな虐めの構図に怒りが沸くが、努めて冷静を装う。
「僕はりんごクラスの守崎優斗だ。君達は何でその女の子を泣かせてるんだ?」
「だってこいつきもいんだもん。」
「ぶすだもーん。」
「うぇぅぅ……」
少女がまた泣いた。
「下らない事するな。嫌いなら近付かなければ良いだろ。君達がやっているのはただの虐めだ。」
「いじめてないし!」
「そうだそうだ!」
「なら、先生やお父さんお母さんに言っても良いんだな?君達がその子を馬鹿にして泣かせてたって。」
「うっ……」
「な、なんで…」
憤慨していたそいつらも俺の言葉に困ったような顔をする。
「言われたくないだろ?大人に知られたくないって事は、"悪いこと"をしている自覚があるって事だ。」
「い、いみわかんないし!」
「そうそう!」
「その子が嫌いならどっか行け!もう近付くな!」
「っ………」
「ね、ねぇ、もういこ!」
怒ったように睨むと、2人はチラチラとこちらを見ながら去って行った。
「………大丈夫?」
ゆっくりと近寄り、すすり泣く少女に優しく問いかける。
「ひっく…う、うぅ……」
少女は泣きながらふるふると首を振った。
どうやら大丈夫ではないようだ。
その泣き顔が妹と被って、俺は無意識にその頭に手を置いていた。
「ふぇっ?」
ツインテールに結ってあるサラサラの髪を撫でると、少女は目を丸くして俺を見た。
「よしよし、怖かったね。もう大丈夫だよ。」
秘技にっこりスマイルを浮かべると、少女はやがて涙を拭って頬を緩めた。
「…ありがと。」
「うん、どういたしまして。僕はりんごクラスの守崎優斗。皆からはゆーくんって呼ばれてる。君のお名前は?」
「あやね。みかんクラスだよ。」
照れたようにはにかむ少女を見て、俺は息を飲んだ。
やや吊り上がった猫目。
幻想的な篝火を想わせるような綺麗な赤い髪。
ゲームの世界らしいファンタジーな髪色だが、とても自然に感じられた。
間違いなく美少女になるであろうと確信できる顔立ち。
そしてその名前。
もしかして……
「朱鷺田綺音…?」
「ぅ?そうだよ?」
少女はこくっと小さく頷いた。
「うあ…マジかぁ……」
俺は呆然と空を見上げる。
「俺の記憶は間違いない…なら歴史が変わったのか……」
彼女とは、幼稚園の年長で知り合うはずだ。
それが、まだ入園して1ヶ月の時点で知り合ってしまった。
「………?」
視線を前に向けると、キョトンと首を傾げている少女がいた。
間違いない。
彼女の名前は朱鷺田綺音。
『NTRの奴隷』のメインヒロインにして、かつて俺が最も好きだったツンデレキャラ。
そして、俺の幼馴染になる少女だ。