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とある夏の日 家族旅行編 2日目 庭園

「ふっふっふっ……俺のターン、ドロー!」


狂戦○の魂(ばあさぁかぁそぅる)!!


「…お兄ちゃん、どうしたの?」


「ごめん、何でもない。」


ついに自分のターンがきてテンションが上がってしまった。

待ち望んではいたがオーバーキルするほど鬱憤は溜まっていないし、ついでにいうとずっと俺のターンでもない。

俺のターンは今日の夜までだ。


「ゆうくん、大丈夫かしら?」


いかん、母さんにまで心配されてしまった。

姉さんも無言ながら心配そうにこちらを見ている。

ネタも通じないのに急にふざけるからこうなるんだね。


「大丈夫だよ、さぁ行こう!」


いざ参らん!






「わぁー!ひろーい!」


目の前に広がる美しい庭園に、凛が目を輝かせて感嘆の声を上げる。

いま、俺達は兼六園に来ていた。


「綺麗ねぇ…うっとりしちゃうわ…」


母さんは艶やかな目で眺めていた。

姉さんも目を見開いてキョロキョロと見回している。


「……凄い。」


「日本三名園の1つだからね。」


「……3?」


「岡山の後楽園と茨城の偕楽園、そしてこの兼六園で日本三名園っていうらしいよ。」


「…ん。」


「凄いお庭なのねぇ…」


「お兄ちゃんくわしいね。」


調べたからな。

兼六園は歴代加賀藩主が作ってきた大名庭園で、神仙思想のもとに作庭したらしい。

園内には大きな池や築山、茶屋などが点在しており、歩き回りながらそれらを見て楽しむ事ができるのだ。


兼六園は春夏秋冬いつ見ても素晴らしい。

春は梅や桜の花が咲き満ちて幻想的な美しさを見られるし、秋は絢爛ながらも儚さを持つ紅葉をしみじみと楽しむ事ができる。

さらに冬は雪から守る為に木々を雪吊りで飾るらしく、雪吊りといえば兼六園といわれるほど見事なのだという。


そして現在、夏。

夏は木々が最も輝く季節。

青々とした木々や草花が庭園を彩り、最も庭園らしい庭園を見せてくれる。

正直な話、個人的には春の兼六園を見たかったのだが、いざ目の前にするとこれはこれで良いものだと思う。


自然に囲まれているからか、庭園内はどことなく涼しく、気持ちの良い爽やかな空気で満ちている。

それだけでなく夏の陽に当てられてキラキラと輝く木々や池を見ていると、不思議と活力が湧いてくる気がした。

癒されるだけでなくパワーも貰えるという、最高のスポットだな。

金沢に来たら兼六園だけは必ず行くべきだと思う。



兼六園の後は、隣接した成巽閣という建物に行った。

成巽閣は、織田家に仕えた前田利家で有名な前田家の奥方の為に建てられた御殿である。

1階が武家書院造、2階が数寄屋風書院造となっており、個人的には万年青の緑庭園と緑青の間が見応えがあると思う。

特に緑青の間は、フランスから輸入した希少なウルトラマリンブルーの顔料を贅沢に使っており、幻想的で雅な空間となっていた。






「次はどこに行くのー?」


成巽閣を出て近くにあった茶屋で一休み。

リフレッシュしたところで、隣に座る凛がこちらにもたれ掛かってそう聞いてきた。


「それは行ってからのお楽しみだよ。」


「えー」


ふっふっふっ……

ということで移動。

これも兼六園のすぐ横なんだけどね。




「うわぁ!おっきいね!」


やって来ました金沢城。

石垣から覗く城を見て凛が目を丸くした。


「…かっこいい。」


「ゆうくんのチョイスは相変わらず渋いわね…」


「べ、別に良いじゃないか。」


良いじゃん、城。

春だったら桜も咲いててもっと綺麗だったんだろうけどなぁ。

復元されたばかりの鼠多門と鼠多門橋が見れたから良いか。


「見てお兄ちゃん!おっきい石がいっぱい並んでる!」


「石垣って言うんだよ。綺麗だね。」


「…ん。」


姉さんが頷いてくれる。

実は俺と1番感性が近いのは姉さんかもしれない。




五十間長屋や橋爪門などを見ながら歩き回り、一通り楽しんで出た頃には夕方になっていた。


「さぁ、お夕飯を食べてから帰りましょうか。」


「はーい!」


母さんの言葉に凛が元気よく返事をする。

一日中歩き回ったのに元気な子だ。


「お店はもう予約してるんだったよね。」


「えぇそうよ。評判も良いみたいだから、楽しみね。」


「だね。」


「……ん。」


昨日は旅館で懐石料理を食べたが、今日は外で食べてから旅館に戻る。

加賀の郷土料理を出してくれる店を、母さんが予約してくれていた。

俺もお腹ペコペコだ。

母さんの腕に抱きついてルンルン気分の凛を追うように、俺と姉さんは歩き出した。


歩きながら姉さんが急に手を繋いできた時はドキッとした。

数秒で離しこちらに微笑んだ姉さんが可愛すぎて、振り返った凛に不思議そうな顔をされたが、なんとか取り繕った。

それは反則だよ、姉さん。

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