とある夏の日 家族旅行編 1日目 関係
思ったより家族旅行編が長くなっているので、サブタイトルを変更しました。
涼しい夜風に姉さんの綺麗な黒髪が揺れ、思わず胸が高鳴るような良い香りが漂ってきた。
だが今の俺はそんな事にさえ集中できない程、混乱していた。
好き?姉さんが、俺を?
知ってたけど……いや、そういう事じゃないだろ。
これは告白…なのか?
でも俺は弟だし。
いや、そんなの今更だろ。
これまで散々姉さんを女性として意識しまくっていたじゃないか。
だから受け入れる?告白を?
そもそも姉さんはどういうつもりで急にこんな事を…
好きにして良いって…何を?ナニを?
ふざけてる場合じゃねぇっての。
とにかく何か言わないと。
……でも何を?
「…ごめん……ユウが悩んでる事…わかってた、のに……」
無言で呆然とする俺に、姉さんが口を開いた。
「我慢…できなかった。…こんな事……おかしいって、わかってる…けど……」
揺れる瞳から涙が零れた。
「私…お姉ちゃん、なのに……」
「っ!!」
"お姉ちゃんなのに"
父が亡くなった後、同じ言葉を聞いた事を思い出した。
同時に、かつて抱いた誓いも。
「……姉弟で恋愛なんて、おかしいよ。」
「あっ……っ!!」
俺の言葉に、姉さんが息を飲んだ。
その眼が悲痛に歪む。
俺は、俯いて震える姉さんの頭を優しく撫でた。
「だから、きっとおかしいのは俺も一緒だよ。」
「………?」
「だって、俺も姉さんを……1人の女の子として、意識してるんだから。」
「っ……ユウ…」
「この気持ちがどんなものなのか、まだ曖昧だけど……俺もきっと姉さんの事が……好き、なんだと思う。」
「ユウ……ユウ!」
「うぉっと!」
姉さんが飛びついてきた為、慌てて抱き止める。
女の子の体って柔らかいんだな…と改めて感じた。
「ユウ…ごめん……苦しめて…ごめん…」
「いや、俺は……姉さんこそ、辛かったよね。」
「こんなつもりじゃ……なかった、けど。」
「大丈夫。俺は大丈夫だから。……正直、姉さんみたいな美少女に好かれてめちゃくちゃ嬉しいからね。」
「ユウ……ん。」
赤らんだ頬を隠すように、姉さんが俺の胸に顔を押し付けた。
俺も頬が熱くなり、夜風が尚更心地よく感じた。
「………ユウ。」
「ん、なに?」
「私……ユウを、困らせたくない…から。」
「?」
「だから…付き合ってほしい、とか……望まない。今は、まだ。」
まだ、ね。
「…だから……好きにして、ほしい。」
「あぁ、そういう事だったんだね。」
「…ん。」
姉さんが憑き物が落ちたような顔で頷いた。
「好きにしてほしいって言ってもなぁ……」
「…なんでも…する、よ?」
「な、何でもって……」
思わず姉さんの体を見る。
浴衣の胸元から、艶かしい鎖骨が覗いた。
生唾を飲む俺を見て、姉さんが気恥ずかしそうに赤面した。
「ん……ユウが、望む…なら。」
「い、いやいやいやちょっと待って!それは駄目だって!」
小学生と中学生だぞ!?
「……そう。」
ちょっと残念そうな顔しないで!!
「え、えっとね……」
必死に頭を働かせるが、出てくる答えはやはり1つだった。
「……やっぱり、姉さんが傍にいてくれたら、それだけで良いかな。」
「でも……」
「ただし、家族として…だけじゃないよ。」
「……?」
首を傾げる姉さんに、俺はにっこりスマイルを送った。
「これからは家族としてだけじゃなくて、俺の"好きな人"としても一緒にいてほしい。これからどんな関係になるのかまだわからないけど……姉さんが俺を好きでいてくれる限り、傍にいてほしいんだ。」
「っ………ん。」
暫し目を見開いた姉さんは、コクンと頷いた。
それでも少し物足りなさそうな姉さんを見て、どうしようもなく疼いてしまった俺は、姉さんを優しく抱き寄せた。
「今までと違う証に……これくらいは、良いよね。」
そっと顔を近づける。
姉さんは驚きに目を見開き、きゅっと目を閉じた。
強い緊張が伝わってくる。
だが、拒絶はしないようだった。
ほんの少しだけ、姉さんが迎え入れるように顎を上げた。
「……ん」
「んっ………」
数瞬の後、唇を離す。
「……ユウ」
「姉さん……」
「…もう……一回…」
「……わかった。」
2度目の口付け。
さっきより長く、姉さんを感じる。
「………ふぅ」
「……ふっ……はぁ…」
艶やかに潤む瞳が俺を捉える。
「…ユウ……好き。」
胸が締め付けられた。
しかし、嫌な痛みではない。
「ありがとう。俺も…好きだよ。」
「…ん………ふふっ…」
「っ……っ!」
「んっ……」
恥ずかしそうに無邪気に笑う姉さんが可愛すぎて、3度目の口付けを交わした。
「それじゃ、おやすみなさい姉さん。」
「……ん、おやすみ。」
部屋に戻り、既に寝ている母さんと凛を起こさないよう、こっそりとそれぞれの布団に入る。
暗闇の中微笑む姉さんを見て、これからどうなるのかわからないけど、きっと今日という日を後悔する事はないのだろう、と思った。




