とある夏の日 家族旅行編 1日目 御酌
受け入れる他なかった家族温泉だが、それも翌日の話だ。
予約制の為、1日前にはフロントを通して予約をしなければならない。
旅館に戻ってから母さんは早速翌日の予約を取った。
無事に予約できたようで、母さんはニコニコ笑っていた。
ともあれ今日のところは普通に温泉に浸かろう。
部屋に荷物を置き、着替えを手にした俺達は一緒に部屋を出て、男湯と女湯に別れて入って行った。
この旅館にはサウナや露天風呂もあるらしい。
俺はワクワクしながら暖簾を潜った。
「はぁ……あぁぁぁぁ………」
体を洗った俺は早速、露天風呂に浸かってしみじみと息を吐いた。
心身の疲れが洗い流され、芯から癒されるような気がした。
「あぁ…気持ち良い……」
岩にもたれ掛かって空を見上げる。
夏の夜空に幾つもの星が煌めいていた。
「おぉ……良いなぁ……」
思わず漏れ出た溜息と共に感嘆の声が溢れる。
これぞ温泉の醍醐味だよなぁ。
「なんじゃ坊主。随分とオヤジ臭い子じゃのう。」
この粋な空間に浸っていると、先客のお爺さんが呆れたように話しかけてきた。
「え…そうですか?」
いかんな、また凛達におっさんっぽいとか言われてしまう。
「うむ。顔つきも何やら子どもらしからぬものがあるしの。」
鋭いな爺さん。
だが体は間違いなく子どもだぜ。
「これでも小学生ですよ。もうすぐ中学ですけど。」
「ほう、そうかそうか。儂にもそんな時代があったのう……もう60年以上昔の話じゃ。」
という事は、お爺さんは齢70を超えているのか。
それにしては元気だな。
「お爺さんもここに泊まっているんですよね?」
この旅館は宿泊客以外の温泉利用はないはずだ。
「そうじゃよ。金沢には毎年来とるんじゃ。明日にはもう帰るがの。」
「へぇ…」
そんなこんなでお爺さんと話しつつ、俺は温泉をゆっくりと楽しんだ。
「温泉気持ちよかった!!」
部屋に戻るなり、浴衣姿の凛が元気にそう言った。
体温が上がって頬がほんのり赤くなっている。
俺は先に部屋に戻っており、帰ってきた凛達を迎え入れた。
「良かったね、凛。母さん達もゆっくりできた?」
「…ん。」
「お母さん癒されちゃった。とっても良かったわねぇ。」
姉さんも母さんも温泉を堪能できたようだ。
良かった良かった。
「お腹すいた!」
凛が空腹に涎を出しそうな顔でそう言った。
俺は苦笑しつつ、風呂上がりで良い香りのする頭を撫でる。
「食事を持ってきてもらおうか。母さん、女中さんに言ってくるよ。」
「あら、ありがとぉゆうくん。」
「凛も行く!」
夕食は食堂に行くか部屋で食べるか選べるらしく、部屋に持ってきてもらう為に、女中さんにお願いする事にした。
その後、備え付けの電話でフロントに伝え、15分後には食事の用意ができていた。
卓上には土地のものを使った上品な懐石料理が並んでいる。
更に中央にはおでん鍋が鎮座。
加賀おでんの美味しそうな匂いがする。
「うわぁ!美味しそー!!」
目をキラキラと輝かせた凛が湯気を食らうように覗き込む。
「りんちゃんも我慢できないみたいだし、食べましょうか。」
「そうだね。」
母さんの声に頷く。
姉さんも無言でコクリと頷いた。
「それじゃ、いただきます。」
「いただきまーす!!」
「…いただき、ます。」
「いただきます。」
合掌。
凛がすぐさま箸を手に取った。
いい感じに熟成してそうなマグロの刺身を醤油に付け、パクリと口に入れる。
「っ…!!うぉいしーい!!」
テンション上がりまくりの凛に負けじと、俺らも箸を伸ばした。
「うまっ!うまっ!」
「…ん。」
「あ、これも美味しいよ母さん。」
「あらほんとねぇ。」
4人でパクパクと食べ進める。
温泉も良かったけど、料理も質が高いなぁ。
特にこの治部煮が好きだ。
よく煮えた肉とワサビの辛味の相性が抜群だね。
「夏のおでんも良いわねぇ。お酒が欲しくなるわぁ。」
母さんが頬をおさえてそう言った。
俺達の前でそんな事を言うのは珍しいな。
「母さん、もう今日は運転もしないんだし、飲んで良いんじゃない?」
「え…いえ、良いのよ。今のはそんなつもりじゃ…」
「折角の旅行だし、お酒に合いそうな料理もいっぱいあるし……飲みなよ。」
母さんはおっとりしているが実はそこそこのお酒好きだ。
まだ俺達が小さかった頃は我慢していたようだが、最近は週末に晩酌をしていたりする。
俺がつまみを作ったりするととても喜んでくれるのだ。
「でも……」
「遠慮しないで。まずはビール?熱燗も頼んでおこうか。おでんや刺身に合うよきっと。」
「な、何でそんなのがわかるのかしら…?」
「気にしない気にしない。それじゃ頼んでくるから待っててよ。」
母さんの疑問を誤魔化しつつ、再度フロントに電話して注文をするのであった。
「ほら母さん。お酌するよ。」
「ありがとゆうくん。お母さんとっても嬉しいわぁ。」
「それなら良かったよ。」
瓶ビールを空けた母さんに、ちょうど届いた熱燗をお酌する。
お猪口を持った母さんはニコニコと笑っていた。
凛は食べ終えると同時にウトウトしていた為、姉さんが寝所に連れて行った。
「あぁ…美味しいわねぇ……」
地酒の熱燗を飲み、どこか艶かしい溜息を零した。
2人してたわいもない話をしながらゆったりと過ごす。
こんな時間も俺は好きだった。
「あ、そろそろ無くなりそう。」
「あらそう。ちょうど良かったわぁ。」
酒のアテもちょうど無くなるところであった。
ほろ酔い気分の母さんは頬をほんのり赤く染めており、浴衣の胸元がちょっと緩くなっている。
豊満な胸が見えそうになっており、そこから妖艶な色気が漂っているような気がした。
思わず生唾を飲む。
「ゆうくん?どうしたのぉ?」
「え、あ、いやなんでも…ちょっ!?」
無意識に凝視していた俺を心配し、母さんが覗き込むようにしたのだが……谷間が…下着が!!
「か、母さん、その……み、見えてる、から。」
「ふぇ?………っ!きゃっ!!」
俺が目をそらしながら注意すると、不思議そうに首を傾げた後、自分の胸元を見て可愛らしく驚いた。
慌てて手で押さえ、恥ずかしそうにこちらをチラチラと見る。
ますます赤らむ頬、羞恥に潤んだ瞳、熱い吐息。
これ以上はまずい、と本能が叫んだ時、寝所の襖が開かれた。
新作です。
のんびり更新です。
『学校ではクールな女教師が僕の前では可愛すぎる』
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