とある夏の日 ???編 後編
金髪ヤンキーが今にも少女に掴みかからんとしているのを見て、俺は思わず飛び出した。
「ちょいとお待ちよ。こんな往来で喧嘩たぁ粋じゃねぇやな。」
やっべ、関西弁に当てられて俺まで普段なら使わないような江戸っ子口調になってしまった。
「あぁ!?なんやこのガキ!!」
「せやせや!!」
「ちょっ、君!危ないから離れときぃや!」
「てやんでぃ!男が集って女を責めるたぁ、たとえお天道様が許しても、俺っちが許さねぇ!!」
なんか楽しくなってきた。
「お前には関係ないやろ!」
「失せろやボケ!」
「せやせや!」
ヤンキー3人組が俺に詰め寄るが、道場の厳ついおっさん達に比べたらこいつらのプレッシャーなんて生クリームを乗せたプリンくらい甘いぜ。
「プリン野郎共が!警察呼ばれる前にとっとと消えなってんだ!!」
いや、実はもう呼んでるんですけどね。
横の方からチラチラこちらを見ながら電話してるおじちゃんが。
それがわかった上で出てきたんだけどね。
「だ、誰がプリン野郎や!」
「いてこますぞガキ!」
「せやせや!」
「君、ほんまに危ないよ!」
「任せときな嬢ちゃん。こんなトーシロー共にやられる俺っちじゃねぇっての。」
「なんやてこらぁ!?」
「やってやろやないけぇ!!」
「せやせやぁ!!」
「ーーーというわけで、ちょっとした小競り合いになっただけです。」
「ふむふむ、なるほど。……周りの証言とも一致しとるな。坊主、協力助かったで。ありがとう。」
事情聴取を終えた警察官が敬礼をした。
あの喧嘩が始まって数分後には警察官が到着したが、その頃にはヤンキー共は呻き声を上げながら地に伏せていた。
「いえ、お騒がせして申し訳ありませんでした。」
「悪いのはアイツらやから、気にせんでええんやで。まぁ、ワイらが来るの待っとってくれたら良かったけど………それにしても、坊主強いなぁ。」
「見た目だけの素人だったので。」
「それでも無傷で3人っちゅうのは大したもんや。せやけど、喧嘩はあかんで。」
「はい、気をつけます。」
「おう。ほな、ワイらはもう行くわ。ほなな。」
警察が去ってすぐに野次馬達もどこかへと歩き去っていき、後には俺と少女が残った。
「君、助けてくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
自分でも、何故あれほど自然に助けに入ったのか不思議なくらいだ。
俺はこんなに正義感の強い男だったか?
「それにしても君、ウチと同じくらいやのによぉやるなぁ。」
少女が目をキラキラさせながら可愛らしいシャドーボクシングをする。
「一応、小さい頃から武道やってるので。」
「かっこええなぁ。中学生?」
「いえ、小学6年生です。」
「小学生!大人びとるから、もしかしたらウチより上かもしれん思うとった。」
「お姉さんは中学生ですか?」
「そや。中学1年生。」
ほう、俺より1つ上か。
綺麗というよりは可愛らしい、八重歯がのぞく今時系の顔立ちをした少女だ。
明るい金髪でちょいギャルっぽく見えるが、綺音や美緒に劣らぬレベルの美少女である。
「そないにじっくり見て、どうかしたん?」
少女が不思議そうに首を傾げる。
「あぁいえ、すみません。お姉さんが綺麗だったので、つい……」
「な、なに急に……君って女ったらしなんやねぇ。」
頬を染めてそっぽを向く。
今のは自分でもキモかったと思う。
「ごめんなさい……それより、俺っち…じゃなかった。俺はこのへんで失礼しますね。」
「ちょい待って!お礼くらいさせてや。」
「え、そんな気にしなくて良いですよ。」
自分でも何で飛び込んだのかわかんないし。
「そんなんあかんえ!ほら、そこ座ろ。ジュース奢んで。」
「いやいやそんな……」
遠慮しようとしたが、少女はぐいぐいと俺の袖を掴んでベンチに引っ張り込んで行った。
「ほうほう、それで京都に来とったんやな。」
「はい。今日は夕方まで自由行動なので、色々と観光して回っていたんです。」
「どないな所に行ったん?」
「広隆寺とか大覚寺とか、あとはーーー」
「渋い所ばっかり回ってるなぁ。君、小学生やん?」
「いや、まぁ……好きなので。」
「変わってるなぁ…」
「あはは……」
苦笑しかない。
中身はおっさんだからな。
自覚はしてる。
「それにしても…関東、かぁ……」
「どうかしました?」
「ウチ、もしかしたら数年後には関東に行くかもしれへんのや。」
「そう、なんです?」
「家の都合でね。」
寂しげな笑み。
会ったばかりの俺が踏み入るのも野暮というものだろう。
「……もし、向こうで会えたら、今度は俺がジュース奢ります。」
そう言うと、少女は目を丸くして俺を見た。
そしてやがて可笑しそうに笑った。
「君、おもろいこと言うなぁ!」
暫く腹を抱えて笑った後、少女は嬉しそうな顔で手を差し出した。
「なら、そん時は互いに自己紹介して、ほんで友達になろ。」
「はい、その時は是非。」
未だ名も知らぬその少女と握手し、俺達はそれぞれ歩き出す。
子ども同士の可愛い約束だが、何となくこの約束はいつか果たされるような気がした。




