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園児の世話をする園児

【朗報】俺、4歳になりました。


4月に入ってすぐに誕生日を迎える俺は、姉さんの小学校入学の準備やら俺の幼稚園入園の準備やらで忙しい中、慌ただしく祝われた。

俺の誕生日から数日後には姉さんは小学生になり、そのまた数日後には俺が幼稚園児となった。


姉さんは俺と一緒に幼稚園にいけないという事で泣いて駄々を捏ねたが、そこは必死に宥めて俺が小学生になったら一緒に登下校すると約束した。

姉さんに触発されるように妹も一緒に幼稚園に行きたいとギャン泣きしたが、そこも来年から一緒に行こうと宥めすかした。


ともあれ、そんなこんながあって俺はついに無職幼児から幼稚園児へとクラスチェンジしたのであった。






入園して1ヶ月が経過した頃。

俺は子ども達の世話をしていた。


「何で俺がこんな事を……あれ、俺も幼稚園児だよね?先生どうなってんだよ。」


独り言をぶつぶつと呟きながら、結んでいた髪が解けてしまった女の子の髪を結び直していた。


「ゆーくんどーしたの?」


独り言に反応した女の子が振り返ってキョトンとする。

おい、まだ直してる途中だろうが。


「何でもないよ。前向いてて。」


「あい。」


にっこりスマイルで促すと、素直に言う事を聞いてくれた。

この子に限らず、もはや俺が所属しているりんごクラスで俺に従わない子はいない。




入園してから1ヶ月間。

俺は子ども達のあらゆるトラブルを解決してきた。

親のいない外の世界を知ったばかりの子どもの精神はひどく不安定だ。


自分の気持ちを言葉にできない子、わがままが通らないと暴れだす子、急に号泣しだす子など様々な子どもがいる。

喧嘩は日常茶飯事、先生も必死に頑張っているが、どうしても不測の事態というものは起こってしまう。


そこで見かねた俺が先生を補佐するように子どもの世話をして回ったのだが、これがいけなかった。

"先生"というよくわからないけど従うべき存在、というもの以外に、能動的に"従おう"と思える存在が現れてしまったのだ。

結果、見ている先生達が軽く引くくらい、子ども達は俺の言葉に従順になってしまった。


最近では先生までもが困った時にチラッと俺を見るようになった。

もちろん先生にもプライドがあり直接的に頼み込んでくる事はないが、その目が「助けてくれないかなぁ…」と訴える。

見過ごして子どもが怪我をしても寝覚めが悪い為、俺はまたしても世話焼きに走るのであった。



そんなこんなでこの1ヶ月はあっという間であった。

今日は他のクラスと合同で外で遊ぶらしい。

最初の1ヶ月はクラスごとに時間を分けて遊んでいたが、そろそろ遊具の使い方等にも慣れてきただろうという事だな。


「はい、それでは皆さんお約束を守って楽しく遊びましょう。」


『はーい!!』


先生の言葉に皆が元気いっぱいで答える。

そして遊び時間が始まると同時に、特に俺に懐いている数人が駆け寄ってくる。


「ゆーくんあそぼ!」


「ブランコしよ!」


「滑り台が良い!」


「鬼ごっこ!」


「かくれんぼ!」


それぞれが違う言葉でわちゃわちゃと叫んでいる。

俺は聖徳太子か。


「よし、ならまずはブランコに行こう。遅くなると長く並ばないといけないからね。その後は回転率の高い滑り台。鬼ごっこは人が多いから今日はやめておこう。最後にかくれんぼをしようね。」


『……??』


今日は合同で遊ぶ分、時間はたっぷりある。

だから順番を決めて遊ぼうと思ったのだが、一気に言ってしまったからよく飲み込めなかったようだ。

俺もまだまだだな。


「最初はブランコに行こう。さぁ、行くよ。」


『うん!』


シンプルに言い直して先導する。

子ども達もニコニコ笑いながら続いた。






「さぁ、最後はかくれんぼだ。じゃんけんで鬼を決めよう。」


ブランコと滑り台で遊び終えた俺達はかくれんぼに移行した。

ブランコと滑り台で順番待ちしていた子ども同士のプチ喧嘩があったりしたが、俺が収めた。

片方はりんごクラスだったがもう片方はぶどうクラスだった為、少し手間取ったがやがてぶどうクラスの子も俺の言う事を聞いて素直に謝ってくれた。


「じゃんけんポン!あいこでしょっ!あいこでしょっ!……あっ」


俺の掛け声でじゃんけんをする。

そして見事、俺は敗北者となった。


「よーし、それじゃ30数えるよ。30、29、28………」


『わー!!』


数え始めると子ども達が楽しそうに散らばった。


「………4、3、2、1……よっしゃ、行くぞ。」


目を覆っていた手をどけて辺りを見る。

多くの子ども達が走り回って見にくいが、俺の観察眼からは逃れられない。


「ふっふっふ…大人を舐めるでないぞ……」


ハタから見たら不気味に笑う気色の悪い幼稚園児だが、そんなの関係ない。

俺は童心に帰って手をワキワキさせながら駆け出した。

先生1「ねぇ、うちのクラスに何か凄い子がいるんだけど。」


先生2「そんなに手のかかる子がいるの?」


先生1「ううん。むしろ逆。こっちの話ちゃんと聞いてくれるし、理解力もある。むしろ他の子のお世話までしてる。」


先生2「……え、なにそれ。」


先生1「どんな育て方したらあんな凄い子になるんだろ。」


先生2「それほんとに幼稚園児なの?」


先生1「当たり前でしょ。たまに子どもらしくない顔するけど、間違いなく幼稚園児よ。」


先生2「どんな顔よ。」


先生1「"先生も大変ですね…"みたいな顔」


先生2「……ほんとになにそれ。」


先生1「わかんない……まぁ、こっちは助かるから良いんだけどね。」


先生2「良いのかそれ……」

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