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とある夏の日 親友編 後編

「すみませーん。僕らもやって良いですかー?」


妙に子ども振った武の声に、殴られ屋のお兄さんがこちらを向く。

そして子ども2人のペアに目を丸くした。


日焼けした肌がチャラ男臭を醸し出しているが、爽やかな笑顔が似合いそうなイケメンであった。

体も細身だがよく絞り込んであり、耐久力は見た目以上にありそうだ。


「勿論構わないけど……君達、中学生?」


「いえ、小学6年生です。」


「え、ほんと?……デカいな。」


俺達…というより武を見て、お兄さんがボソッと呟いた。

まぁ見た目だけなら小学生には見えないからね。


「結構高いけど、大丈夫?」


お兄さんが心配そうに看板を指差す。

うん、悪い人じゃなさそうだ。


「大丈夫っす!」


「君もやるのかい?」


お兄さんが俺を見て言った。


「あー…はい。一応やらせてもらいます。」


「オッケー。なら、どっちからやる?」


「僕からいきまーす!」


武が勢い良く手を上げた。

頼むからタックルはやめてくれよ。






『頑張れボウズ!!』


『頑張ってー!』


小学生が挑むという事で、周りの人達が声援も送ってくれる。

武はグローブをドスドスと突き合わせて殴られ屋のお兄さんと相対した。


「……太ってるのかと思ったけど、意外に良い体してるなぁ。何かスポーツしてるのかい?」


武の体を繁々と見つめていたお兄さんが問いかけた。

鋭いな。

やっぱこのお兄さんも何かやってんだろうな。


「相撲っす。」


「あぁ、相撲か。なるほどね。」


納得したように頷いている。


「一応言っておくけど、うちはパンチだけだからね。」


「りょーかいっす!」


話が終わったタイミングで、お兄さんのアシスタントっぽい人がストップウォッチのボタンを押した。

いよいよ開始である。




その後、奮闘するもののあまり当てられず、武は肩で息をしながら戻ってきた。

上手く避けられ続けた武だが、その顔は満足げな笑みを浮かべている。


「いやぁ楽しかった!はっやいはやい!」


「お疲れ様。確かに速かったね。でも結構頑張ってたじゃん。」


「もうちょいやれると思ったんだけどなぁ。やっぱ課題はスピードか。」


その場でシャドーツッパリをし始める。

こんな事でも相撲に繋げて考えるとは、意外に真面目な奴だ。

ツッパリをする武を眺めていると、爽やかスマイルのお兄さんが歩み寄ってきた。



「いやいや、凄いもんだね。最近の小学生はこんなに動けるのかい?」


「こいつが特殊なだけです。もっと小さい頃から本気で相撲やってるので。小学生の相撲業界では結構知られてるんですよ。」


「それほどでもないでごわす。」


唐突なコテコテ相撲キャラやめろ。


「そうだったのか。未来の横綱候補とやれたのは幸運だったな。」


横綱か……武ならいつか本当になれるかもしれないな。

運動のスペックだけならまじで高いし、情熱もあるし。


「でも全然当てられなかったっすけどね。お兄さんまじ速いっすわ。」


「本当はもうちょっと当てさせてあげようと思ってたんだけど、思いの外パワーが強くて良いパンチだったからね。小学生とは思えなかったよ。」


腹に手を当てて苦笑するお兄さん。

そういえば最初の1発が入った時に驚いた顔をしていたな。

まぁ体だけなら小学生超えてるからね、こいつは。




「次はそちらの君だね。」


「あ、はい。宜しくお願いします。」


お兄さんがこちらを見たので、頷く。


「こいつは俺より強いっすよ。気をつけて下さい。」


おい、余計な事言うな。


「へぇ、それは面白そうだね。」


お兄さんの目が鋭く光った。

いや、怖いって。

イケメンに睨まれるとなんか圧力あるよね。


「確かに君もかなり鍛えてるみたいだね。何かしてるのかい?」


「空手を少々……」


「何が少々だよ。去年の世界大会で入賞してたろ。」


「世界大会!?本当かい!?」


「いやまぁ……少年の部なので…」


「小学生なんだから当たり前だろ。」


だから余計な事言うなっての。

お兄さんの目が更に鋭くなっただろ。


「僕も、本気でやらないといけないかもしれないね。」


いや、流石に本気で鍛えてる大人と比べられたくないから、やめて下さいね。

とか思いつつお金を払ってグローブスタンバイ。

観客達の声援が再び飛び交う中、アシスタントさんが試合開始を告げた。





「ふっ!しっ!ふぅ!」


鋭いジャブの連攻を、お兄さんは素早いステップとムーブで避けていく。

何度かは当たるものの、顎に添えられたグローブでガードされていた。


「しっ!しぃ!はっ!」


たまにストレートやフックを打って様子を見るが、このお兄さんは外で見ていた時以上に動き出しが速い。

回避主体のアウトボクサーなのかもしれないな。


残り時間は半分を切っている。

体力的には問題ないが、このまま同じように攻めても逃げ切られるだけだろう。

それはちょっと悔しいよな。


「しゃっ!はっ!……ふっ!」


スピード重視の細かい連打で上部に意識を集めて、瞬時に深く潜り込む。

見る人が見ればレスリングのタックルのようだと思うことだろう。


「っ!?」


前傾姿勢でガードしていたお兄さんも、即座に下がる事ができない。

それでもすぐに反応してボディを警戒するあたりは流石だ。


「よっ…と!」


「なっ!…くっ!」


踏み込んだ先で強く地面を踏みつけ、上体を起こしつつ腰から上に向けて拳を放つ。

ボディに来ると思っていたのにアッパーを入れられると思い、お兄さんが慌ててガードを上に戻すが、それすらもフェイントであった。


「しゃおら!!」


上段にアッパーを入れると見せかけて、斜めの軌道でボディに突き入れる。

俗に言うリバーブロー、それもスマッシュという打撃技だ。

肝臓(リバー)に衝撃が走りお兄さんが呻く。

ダウンまではいかないが、かなり足がふらついていた。


「畳み掛けろ、優斗!」


後ろから武の声が届く。

だが俺は、攻め込もうとした足を止めた。


「……時間だ。」


直後、ストップウォッチの音が鳴る。

観客達が騒然となる中、俺は安堵の溜息を零した。






その後、ボクシングを始めないかとお兄さんが勧誘してきたのを苦笑で受け流し、その場を後にした。

あのお兄さんはやはりボクサーだったようで、しかもプロライセンスも持っているとのことだ。

小銭稼ぎとして殴られ屋をしているらしい。


勧誘は断ったが、アシスタントさんが撮影していた動画をSNSに投稿しても良いかと聞かれた為、それは承諾した。

興奮した様子でシャドーツッパリを繰り返す武を海に突き落として頭を冷やさせた後、普通に泳いで遊ぶのであった。

殴られ屋のお兄さんは決して弱くありません。

仮にお兄さんも攻撃アリだった場合、今の優斗ではまず勝てません。

普通にスピードで負けてボコボコやられます。

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