とある夏の日 後輩編 中編
「めっちゃ面白かったね!ブラック・ビビッドかっこよすぎるんやけど!」
映画を観終えてスクリーンから出ながら、美緒が興奮した様子で話す。
興奮しすぎて敬語がとれて方言が出てるわ。
「わかる。あのクールさが堪らないよね。それにジョニー・クルーザーの渋い演技も良かったよ。」
「リーダーの貫禄がばり出とった!やっぱランダーズはジョニーがいてこそやんね。」
「前作の12はあんまり活躍しなかったからね。」
「その分ブラックがいっぱい動いとったけど……やっぱリーダーが動くと違うとよ!」
「だねぇ。バッド・デーモンはどうだった?」
「あの人、他の映画ではかっこいいらしいけど、ランダーズでは天然系で可愛いけん好きっちゃん。でもやるとこはやるみたいな。」
「まだ若いからね。色んなキャラを演じられるのも今だからこそじゃないかな。」
「……優斗くん、うちのお父さんみたいな事言うね。」
「…え、そう?」
美緒のお父さんって、確か40歳くらいじゃなかったっけ。
……やばい、また凛からおっさん臭いとか言われてしまう。
「さ、さぁ行こうか。美緒ちゃんはこれから何か予定とかあるの?」
「ううん、なんもない……です。」
あ、敬語に戻った。
「そっか。ならもう帰るのかな?」
「…優斗くんはどうするんですか?」
「俺は…折角だからちょっと色々見て回ろうかなって。」
もし1人ですぐに帰りたい場合は「なら帰ります。」と言えるような答えを言う。
「な、なら…一緒にいても…良いですか?」
ちょ、可愛すぎませんこの娘?
家族以外で可愛すぎて鼻血出そうとか綺音以来なんですけど。
「勿論良いよ。美緒ちゃんと一緒にいるの、楽しいから。」
「はぅ…あ、ありがとうございます。」
色々見て回る、とは言っても特に目当ての物があるわけでもなく。
服屋や雑貨屋などを冷やかして回った。
先日の母さんとのデートとしている事はほぼ同じだが、一緒にいる相手が同年代だと視点が変わって結構面白い。
一通り回って、気付けば夕方に差し掛かっている。
もう帰っても良いが、どうしようか。
「美緒ちゃん、とりあえず俺は見るものはこれくらいで………美緒ちゃん?」
まだ何か見たいものはあるかと聞こうとしたが、美緒は4階の一角をぼーっと眺めており、俺の声は聞こえていないようだ。
その視線の先を辿っていくと、カラフルな光を放ち賑やかな音があふれている……ゲームセンターがあった。
「おーい、美緒ちゃん?」
「はぃ!?」
肩をポンポンと叩くと、肩を震わせて勢いよく振り向いた。
「ゲームセンター、行きたいの?」
「え、あ、ちがっ…その……」
「?」
不思議そうに首を傾げると、美緒は俯いてモジモジしながら、小さな声でポツリと呟いた。
「あ、ああいうの、あんまり行った事ないけん……」
「え、そうなの?」
「お父さんが、お金がもったいないけんってさせてくれんくて、するんならお小遣いでやりなさいって……。でも、1人で行くのはちょっと怖いけん……。」
あー…まぁ、親父さんの言う事も凄くわかるけどね。
俺も前世では大人になったらゲーセンに魅力を感じなくなった人間だし。
「なるほどね……それじゃ、行ってみようか。」
「……良い、と?」
「うん。さぁ、行こう!」
「あっ…」
遠慮気味だがチラチラとゲームセンターを見ている美緒の手を引き、歩き出した。
「あ、もうちょっと…あ、あぁ……」
UFOキャッチャーのガラスにくっつくようにして見ていた美緒から、落胆の声が出る。
彼女の目の前では、取れそうで取れなかった小さなテディベアが、落ちる穴の前にある柵に体を引っ掛けていた。
「もうちょっとやったのに……」
落ち込む美緒の頭を撫でると、少し肩を震わせてこちらを見た。
「優斗くん…?」
「もう一回やったら取れるかもしれないよ?ほら、あと一押しじゃないか。」
「う、でも……」
美緒が水色の財布を握り締めている。
……あぁ、もうお金があまりないのか。
さっきまでコインゲームとかもしていたしな。
「…よし。」
俺は挿入口に200円を入れ、UFOキャッチャーを始動させる。
美緒がキョトンと眺める中、慎重にアームを動かした。
「もうちょい…もうちょい…もうちょい……オッケー。」
最後に赤く光るボタンを押すと、アームが降下し出した。
そしてテディベアを掴む……かと思いきや、アームは降下の勢いをそのままに、テディベアの頭を叩く。
テディベアの体がクルッと反転し、穴に落ちた。
「よっしゃ!……ほれ、美緒ちゃん。」
取り出したテディベアを美緒に渡す。
美緒の髪と同じ、綺麗な青色のリボンを首に巻いた可愛らしいテディベアだ。
美緒はそれを受け取って目を丸くした。
「え、これ……」
「それが欲しかった…んだよね?」
これで違ったらめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。
あ、頷いた。
良かった良かった。
「でも……」
「?……あ、ごめん。もしかして、自分で取りたかった?」
「う、ううん。違くて……これ、もらって良い…と?」
「うん。ていうか貰ってくれなかったら困るというか。」
俺は部屋に置かないし。
「そ、そっか……優斗くん、ありがとね!」
ギュッとテディベアを胸に抱いて笑顔になる。
思わずドキッとしてしまうような、可憐な笑みであった。




