とある夏の日 妹編 後編
皆さん、感想等で応援していただきありがとうございます。
日々の応援メッセージが本当に嬉しすぎます。
質問等を意図的に返信しない事もありますが、今後の展開をお待ち下さいという感じで宜しくお願いします。
「お兄ちゃん、次はこれやろ!」
『ぽよぽよクエスト』で見事3連敗を喫した俺が温かいココアを飲みながら黄昏れていると、後ろから凛が抱きついてきた。
朝シャンはしてないはずなのに何でこんな良い香りすんの?天使?
「ねぇお兄ちゃんってば、聞いてる?」
「ん、あ、おう?」
「だーかーらっ、これやろ!」
俺の首から手を回し、眼前に薄い箱を持ってくる。
ゲームソフトだな。
「おー…『真ウルフ・ファイターズ5 改』か。懐かしいね。」
凛が持ってきたのは、有名な格闘ゲームシリーズの最新作であった。
最新作とは言っても発売されたのは2年前で、かれこれ1年ほど仕舞われていたはずだ。
買った当初は家族で結構やってたんだけどなぁ。
「久しぶりにやろーよ!」
「ふっ、良いだろう。ぽよぽよの雪辱を果たしてやる。俺の百八式が火を噴くぜ。」
「お兄ちゃんの炎は何色かな?」
「いや、それ俺の台詞……」
そんなこんなで……ファイッ!!
「ほっ!はっ!そりゃ!」
「ふっ、甘いぞ凛!関東一部で売られてる某練乳主体なコーヒーより甘い!」
凛の操作する"デリー・バンガード"が次々に技を発動するが、俺の操作する"草払涼"は細かいステップとジャストタイミングのガードでデリーを翻弄する。
そして隙を見て針を刺すような弱攻撃を確実に当てていく。
「それそれそれそれ!」
「くっ、お兄ちゃん……正々堂々と戦えー!」
「正々堂々?知らん言葉だな…そらよっと。」
鼻で笑いつつ、デリーのタックルをしゃがんで避けながら足払い蹴りで動きを止め、続く炎のアッパーでトドメを刺した。
「ふははっ、これで1ラウンドはいただいたぞ。」
「ぐぬぬ…お兄ちゃんめ……」
ドヤ顔満開の俺を悔しげに見上げる凛。
天使の悔し顔……うむ、良い。
続く2ラウンド。
1ラウンドと同じように弱攻撃でジワジワと痛ぶっていた俺だが、フィニッシュで欲をかいてしまった。
「よっしゃ、トドメだ!」
わざわざジャンプして右手の炎をぶちかまそうとしたのだが、飛び掛かったところを綺麗に捉えられた。
「隙ありだよ、お兄ちゃん!」
「なにっ!?」
デリーの残像を纏ったタックルが涼に突き刺さる。
更に強烈なアッパーで打ち上げられ、追い討ちのジャンピングスマッシュで地面に叩き落とされた。
一瞬でスタミナがレッドゾーンに。
「ぐっ…だが、まだだ!まだ終わらんよ!」
「ほいっ」
「ぐはっ!」
立ち上がったところをジャブで打たれKO。
おのれ凛め!
「弱攻撃でフィニッシュなんて……情けないぞ凛!」
「お兄ちゃんにだけは言われたくないよ。」
ごもっとも。
泣いても笑ってもこれが最後だ!
生死を分けた3ラウンド。
ゴングと同時に駆け出した涼は、先手必勝でデリーに飛びついた。
「そら!ジャブ!ジャブ!キック!しゃがみジャブ!キック!」
弱攻撃の雨。
デリーは堪らずガードをする。
「お兄ちゃん!そんなので勝って嬉しいの!?」
凛が涙目で叫んだ。
「嬉しいに決まってるだろ!ぽよぽよの惨敗を忘れてはいないぞ!」
「大人げないんだ!」
そりゃ子どもだからな。
ボク、ショーガク6ネンセイ。
「悔しかったら抵抗するんだな!それそれそれ!」
「くぅぅぅ……そりゃぁ!!」
凛が再度必殺技を放つ。
ふっ、愚かな。
「同じ手に2度かかる俺ではないのだよっ!」
すかさずこちらも必殺技で迎撃。
「くらえ、裏百八式!!」
タックルしてくるデリーに爆炎をぶつける。
残り少なかったデリーのスタミナは、いとも簡単に0になった。
「俺の勝ち、だな。」
「うぅぅ…負けちゃったぁ……」
しょんぼりする凛も可愛いのう。
「もうやめとくか?」
「やっ!もっかいやる!」
凛の瞳がギラギラと燃えている。
ふっ、諦めぬか…それも良かろう。
兄のプライドを勝利に捧げたこの俺が、受けて立ってやる!!
その後、1年前の勘を取り戻してきた凛に巻き返されたりして、結局5勝4敗でギリギリ勝ち越したのであった。
「もうすぐ夕方だな。まだ何かするか?」
あと2時間もすれば、外出している姉さんも帰ってくるだろう。
今日は母さんもそこまで遅くならないと言っていた。
そろそろ風呂や夕飯の準備をしなければならない。
「んっとね…人生ゲーム!」
「それはちょっと時間ないな。」
「あぅ……」
しょんぼりする凛。
してあげたい気持ちはあるが、人生ゲームなんてしてたら時間がかかりすぎてしまう。
それに、我が家にある妙にリアルな人生ゲームには、あまり良い思い出がなかった。
確か数ヶ月前に皆でやった時は、妻が浮気をして離婚した挙句に事業が失敗して多額の負債を抱えてしまったのだ。
途中までは結婚して子どももできて、起業した会社もうまくいってたんだけど……何でああなったのだろうか。
いま考えても仕方のない話だが、姉さんや母さんのなんとも言えない同情するような目を思い出した。
「んー……あっ!」
やるせない気持ちになって肩を落としていた俺を尻目に、凛が何かを思いついたようだ。
「じゃんけんしよっ!」
ニパッと笑って手を差し出す。
「じゃんけん?」
「うん!じゃんけん!負けた人は、勝った人の言う事を聞くの!」
あぁ、そういうやつか。
「…まぁ良いか。よし、やろう。」
これならすぐ終わるし、もし凛が勝っても変な命令はしないだろう。
「じゃーんけーんポン!」
「ほい……あっ」
俺がグーで凛はパー。
はい、負けました。
何か今日負けてばっかだな。
「あらら、負けちゃった。」
「やった!凛の勝ち!」
ぴょんぴょん跳ねる凛。
可愛いんじゃぁ。
「それじゃ、凛のお願い聞いてね?」
凛が上目遣いにこちらを見る。
「よし、どんとこい。」
仁王立ちで構える。
はてさて、凛のお願いは何だろな。
「んっとね……お兄ちゃんは、これからも凛と遊ぶことっ!いーい?」
……………………
………はっ!?
やばい、あまりの可愛さに失神していた。
「お兄ちゃん……?だめ?」
俺の反応がないのに不安になったのか、凛が泣きそうになっていた。
俺は首が捻じ切れるんじゃないかという勢いで首を振った。
「い、いやいや!全然だめじゃないから!スーパーウェルカムだから!」
「うぇるかむ?」
「えーっと……お兄ちゃんも、これからも凛といっぱい遊びたいって事だよ。」
「ほんとっ?」
「勿論だよ。またお兄ちゃんと遊んでくれるかい?」
「うん!いいよ!」
満面の笑みで頷く妹は、間違いなく世界で一番可愛かった。




