とある夏の日 妹編 前編
「おーにーいーちゃん!あーそーぼっ!」
昼飯を食って1時間。
YouTubeで海外のオーディション番組を観ていると、部屋の扉がコンコンコンとリズミカルに叩かれ、外から凛の元気な声が響いた。
俺は苦笑しつつベッドから起き上がり、扉を開く。
凛がこちらを見上げてニパッと笑った。
「お兄ちゃん、ひま!」
「遊びのお誘いかな。でも、今日はお友達と遊ぶんじゃなかったの?」
「友達が風邪引いちゃったらしくて、今日はなくなったの。」
「そうだったのか。」
「うん、だからひまなの!遊ぼ!」
「良いよ。何がしたい?」
まだまだ子どもっぽい笑みを浮かべる凛の頭を撫でる。
彼女の笑顔がまた一段と明るくなった。
「んっとね…ゲーム!」
おや?
いつもなら、公園でキャッチボールやサッカー、バスケットなんかのボール遊びをしたがるんだが。
「珍しいね。外に行かなくて良いの?」
「うん。お兄ちゃん、疲れてるみたいだからね。」
なんと、俺を気遣ってくれていたのか。
やば、涙出そう。
確かにここ数日、空手の一日稽古をしたり同級生とプールに行ったりしていたので、今日は体がややだるかったのだ。
まさか凛がこんな気遣いを見せてくれるとは……
まぁそこで誘いを遠慮しないのが凛らしいところなのだが、それは兄としては嬉しいから問題なし。
今日は室内で遊んであげようじゃないか。
「ありがとう凛。それじゃ、遊ぼうか。」
「やった!お兄ちゃん大好き!」
鼻血出そう。
俺も大好きです。
まずはスマホの対戦型パズルゲーム。
俺がスマホを買ってもらったタイミングで、凛も一緒に買ってもらっていた。
前世の俺がスマホを持ったのは高校に入ってからだったし、周りも大体そんな感じだったが、この世界……というかこの時代は、小学生でも高学年になれば少数ではあるがスマホ持ちもいる。
母さんはあまりスマホばかり使わないようにと注意していたが、凛はスマホでゲームしたり動画見たりするよりも、外で遊ぶのが好きなスポーツ少女だ。
姉さんもあまりスマホに触れず、紙の書籍を読むのが好きなので、この家でスマホ依存に注意すべきなのは、実は俺だったりする。
データ制限にかからないように気をつけてはいるが、家にはWi-Fiがあるから、ついつい動画を見続けたりしてしまうんだよな。
特に最近は海外のオーディション番組を観て、海外プロデューサーの辛辣すぎる毒舌に背筋を凍らせたり、逆に審査員総立ちの高評価に胸を躍らせたりするのが好きで、気がつけば一日中スマホを眺めていたりする。
母さんに咎められてスマホを没収されそうになってからはなんとか我慢して控えるようにしていた。
話がかなりそれたが、俺も凛も今では普通にスマホで遊ぶような事もできるようになったのだ。
特に一緒にやる事が多いのが、このパズルゲームである。
有名な某RPGと昔からあるパズルゲームのぽよぽよ君のタイアップで開発された『ぽよぽよクエスト』。
可愛らしい顔のついたスライム達を種類ごとに組み合わせて合成させていき、先に最終進化形態であるゴッドスライムを合成させて方が勝ちというゲームだ。
近くにいる相手と対戦する際には、相手の画面を見れるモードと見れないモードがある。
見れるモードにすると自分の画面が小さくなって見えづらい為、俺達はいつも対戦相手の画面が見れないモードでプレイしていた。
「お兄ちゃん、いまなに?」
リビングのソファで、隣に座ってピコピコやりながら凛が尋ねてきた。
「ジェネラルスライム。凛は?」
「カイザースライムだよ。」
「え、嘘。」
カイザースライムはジェネラルスライムを3体合成すると作れるスライムで、カイザースライム2体でゴッドスライムになる。
つまり、今やっと2体目のジェネラルスライムを作った俺は凛に負けているという事だ。
凛はあまり頭が良くなく、先を読むというのが苦手だから普通のパズルゲームは下手なのだが、こういう次から次へと組み立てていくやつは動物的な勘でどんどん構成していくのだ。
その結果上手くいく時といかずにボロボロになる時があるのだが、今日は随分と調子が良いらしい。
「くっ、こうなったら……」
俺は画面上のあるボタンをタップする。
「よーし、この調子ならお兄ちゃんに……あっ!」
ご機嫌だった凛が声を上げた。
目を見開いてこちらを見る視線に、ニヤリと笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん、ずるい!」
「ふっ、勝負は残酷なのだよ。」
今頃、凛の画面ではせっかく並べていたスライム達がごちゃごちゃに配置されているのだろう。
俺はアプリ内のコインを消費して魔法を唱え、凛のスライム達をランダムに混ぜたのだ。
「もうちょっとで2体目のジェネラルができたのに!」
「おっと危ない危ない。さぁ、俺もようやくカイザーに追いつくぞ。」
ようやく3体目のジェネラルが合成できた。
これでカイザースライムに進化だ。
「ぅぅぅ…魔法を使うなんて……」
「悔しかったら凛も魔法を使うんだね。」
「使いたいけどコインがないの!」
うん、知ってた。
凛はコインが手に入ったら1人プレイの時にどんどん使っちゃうタイプだからね。
こうして対戦する時には大体金欠なんだ。
「お兄ちゃんひどい!悪魔だよ!」
「ふはは!何とでも言うが良い!勝てば官軍なのだよ!ふはははは!」
高笑いして凛を追い詰める俺。
その後、見事に追いつけず普通に負けたのでした。




