姉妹喧嘩の時はカカシになります
俺が1歳となった年の秋。
母さんは見事可愛らしい娘を産み、俺は晴れてお兄ちゃんとなった。
「にぃに、にぃに。」
凛と名付けられた妹は、その名に反して好奇心旺盛で天真爛漫な子だ。
その妹も生まれて1年以上が経ち、ようやく見た目が赤子から幼女へとなった。
多少は言葉を話せるようにもなっている。
「にぃに、よしよし。」
甘えたがりで、拙い足取りで寄ってきては頭を差し出し、撫で撫でを強請る。
「よしよし、凛は可愛いね。」
前世では一人っ子だった俺は、目に入れても痛くない程に妹を可愛がっていた。
すると、姉さんが部屋の扉から顔だけ出してジトーっとこちらを見てつまらなさそうな顔をしている。
これも最近ではよくある事だった。
「姉ちゃんもおいで。」
にっこりスマイルで手招き。
しかし姉さんは顔をぷいっとそらした。
これもいつも通りだ。
怒るなら見なければ良いのにと思うが、姉さんも構って欲しいのだろうな。
「姉ちゃん、早く。姉ちゃんの頭もよしよししたいの。」
「……ほんと?」
「ほんと。」
「……ん。」
トテトテと近寄る姉さん。
俺の3歳上である姉さんは今年の夏で6歳になる。
来年からは小学生だ。
姉さんはいま幼稚園の年長であり、来年は俺が姉さんと入れ替わりで入園する予定となっている。
「よしよし、姉ちゃんも可愛いよ。」
「んふぅ」
満足げなドヤ顔が可愛らしい。
「むぅ…にぃに!」
姉さんのドヤ顔を見て嫉妬したのか、凛が俺の手をグイグイと引っ張る。
「だめ。お姉ちゃんの。」
反発するように姉さんも腕を引っ張る。
可愛いけど俺は俺のものだ。
「めっ!」
「りんちゃんがめっ!」
2人して膨れて睨み合う。
両者から引っ張られた俺はカカシ状態だ。
当然姉さんの方が力が強いためそちらに引っ張られそうになるが、そうなると凛まで引っ張られて転ぶかもしれない。
俺は小さな体で必死に踏ん張り、姉さんにも凛にも引っ張られないようにしていた。
「うぅ……もうやめて!!」
振り払うと2人とも倒れてしまうから頑張って軽く引き寄せながら、俺は叫んだ。
2人がピタリと止まって目を丸くする。
「痛いよ、2人とも。」
顔を顰めてそう言うと、2人は慌ててぱっと手を離した。
「あっ…ご、ごめんゆーちゃん。」
「う……にぃに…」
姉さんはオロオロと目線を彷徨わせ、凛はいまにも泣きそうになっている。
俺は再度2人の頭に手を乗せた。
「ゆーちゃん?」
「にぃに…」
「あのね、僕は姉ちゃんも凛も大好きだよ。だから喧嘩は嫌だな。」
「ぅ…わかった。」
「あぃ」
俺が怒っていないのがわかったのか、2人は安堵しつつも俯く。
「さぁ、2人とも謝ろうか。」
「ん……ごめんね、りんちゃん。」
「ねぇね、ごめんなしゃい。」
2人がペコリと頭を下げた。
再三、俺は頭を撫でる。
「よく謝れたね。姉ちゃんも凛も偉いよ。よしよし。」
「…んふぅ」
「ぇへへ……にぃに、しゅき。」
「うん、僕も大好きだよ。もちろん、姉ちゃんもね。」
「ん」
姉さんは照れたように俯き、凛はぴょんぴょんと跳ねる。
2人とも本当に可愛らしい。
自慢の姉妹だ。
この姉妹が不幸にならぬよう、俺は俺にできる事を精一杯やっていこう。