傲慢と憤怒 中編
本日2話目です。
「姉さんが何で虐められてんのか、お前わかってんのか?」
「い、いや……一体どうして…?」
泣きそうな顔で首を振る高坂を、俺は鼻で笑った。
「嫉妬だよ。お前に惚れてる面食いの能無し共に嫉妬されて虐められてるんだ。」
「嫉妬……」
「お前はそういう女共が好きなんだろ?都合の良いように扱えて、何でもかんでもハイハイ頷いてくれて、自分をチヤホヤしてくれる女が好きなんだよな?」
「そ、そんな事ない!」
「だったら何でそいつらを使った?姉さんと組みたかったなら直接姉さんに伝えりゃ良かったんだ。お前の気持ちをよ。だが、お前はそうはしなかった。姑息にも周りの人間を使って外堀を埋め、姉さんを罠に嵌めた。それは何でだ?」
「そ、それは…罠とかそういうんじゃ……」
「なら、どうして姉さんに直接言わなかったんだ?」
「それは…それは……」
認めたくないのか、自覚がないのか。
わからないなら俺がはっきりさせてやる。
「断られると思ったから…だろ?違うか?」
「っ!?」
愕然とした表情。
「図星みたいだな。やっぱりお前は姉さんが断らないとわかった上でそういう手段に出たんだ。正面から頼んでも断られるから、自分の願望を押し通す為に、姉さんの意思を蔑ろにしたんだ。」
口をパクパクとさせる高坂。
否定も反論も出てはこない。
「その結果、自分の思い通りの展開になって喜んでいたんだろ?都合の悪い事からは目を伏せて、姉さんとペアになる事ができたという結果だけを見て、ほくそ笑んでいたんだろ?」
「な、あ……う……」
「お前はそれで良かったかもしれないが、結果的に虐められるようになった姉さんはどうなる?望んでもいない役目を負わせられ、理不尽な嫉妬に晒され、逃げる事もできない姉さんはどうすれば良いんだ?」
「それ、は………」
「虐めが信じられないとか今更言うなよ?こっちは色々な人に協力してもらって調べてきたんだ。お前がどんなつもりでこんな事をしやがったのかと問い詰めに来たんだからな。」
「ど、どんなつもりって…言われても……」
「高坂、お前は何で姉さんとペアになろうと思ったんだ?もっと言うと、何で姉さんに惚れた?姉さんとお前の間に大した交友関係はなかったはずだ。」
「っ……」
「言え。今更隠し事ができるとは思うな。」
「うっ……前から悠ちゃ……も、守崎さんの事は、気にはなっていたんだ。いつも1人でいて、楽しくなさそうで……そ、それに…可愛かった…し。」
姉さんは可愛い。
それは間違いない。
そこだけは全力で同意できる。
だが楽しくなさそうってのはいただけないな。
読書してる時なんかはほんの少しだけ楽しそうにしているじゃないか。
それがわからないなら、やはり姉さんには相応しくない。
「それで?」
「…先月の家庭科の授業で、調理実習があって……その時に、守崎さんとは同じ班だったんだ。」
それは塩谷先生も言っていたな。
その時に何かあったのか?
「調理中に、僕が包丁で指を切ってしまって……それで、守崎さんがすぐに絆創膏を貼ってくれたんだ。しかもその後は守崎さんが包丁を使ってくれたんだけど……とっても上手で…その……」
ふむふむ、なるほど。
元々ちょっと気になっていた女の子から傷の手当てをされて、しかも家庭的かつ女子力の高いところを見てしまったから、この人生舐めてるような坊ちゃんは一発で惚れてしまった、と。
「しかも、絆創膏のお礼をしようとしても、全然気にしてなさそうな感じで……それがすごく…カッコよくて……」
それはたぶん、興味がなかっただけではなかろうか。
というか間違いなくそうだと思う。
お礼は良いから話しかけないでとか考えてそう。
しかし、姉さんが大して仲良くもない男子にそんな優しくするとは……
いつも絆創膏なんて持ってたっけな…?
調理実習だから持って行ってたとか?
んー………ん?
「あっ……あぁ!」
「うわっ!」
突然大声を上げた俺に、高坂が驚いて目を剥いた。
でもそれどころじゃない。
約1ヶ月前の朝を思い返す。
家庭科で調理実習があるとか言っていた姉さんに、万一の事を考えてと絆創膏を渡したのは誰だったか。
……はい、俺です。
そして姉さんの料理スキル。
ゲームでは姉さんに家事スキルがあるなんて設定はなかったはず。
この世界で何故姉さんが料理できるのか。
それは、母さんを助ける為に母さんに代わって俺と一緒に料理をする事が度々あったからだ。
その提案は誰がしたのだったか。
……はい、俺です。
という事は、調理実習で高坂が姉さんに惚れたのって……
「俺のせい……?」
いやいやいやいや……え?
全ての原因が俺にあるとは言わないが、その一端が俺にあるのは間違いなさそうであった。
…………よし、ひとまず忘れよう。
まずは姉さんの現状をどうにかしなければならない。




