傲慢と憤怒 前編
本日3話投稿します。
1話目です。
陽の当たりにくい校舎裏。
これがアバウトでDROPでくろーばー的な高校だったら、紫煙をくゆらせたバッドボーイ達が便意を催しそうな座り方で屯しそうな所だが、残念ながらここは小学校。
そして1人佇むのはまだまだ可愛い盛りの2年生、俺である。
放課後、すぐに俺は校舎裏にやってきた。
その10分後、そいつは現れた。
身長はさほど高くない。
5年生男子の平均から見てもやや低いくらいだろう。
だが容姿はジュニアアイドルかってくらいに整っており、放つオーラは気持ち悪いくらいにキラキラしていた。
こんな奴がこの学校にいたのかと驚いたが、よく考えたら休み時間に校庭などで見た事がある。
まさか姉さんと同じクラスだとは思わなかったが。
彼は1人待つ俺を見てキョトンとした後、爽やかに笑った。
「やぁ、君が悠ちゃんの弟くんかい?」
悠ちゃん…だと?
こいつ、縊り殺してやろうか。
「はい。2年4組の守崎優斗と言います。貴方が高坂隼人さんですね。」
「うん、そうだよ。よろしくね、優斗くん。」
「えぇ、よろしくお願いします。」
馴れ馴れしく名前呼んでんじゃねぇぞボケ。
と言いたいのを我慢する。
まだ、判決を下すには早すぎる。
「それで、悠ちゃんの事で話があるって事だったけど…?」
「その前に、今日ここに来る事は誰にも知らせていませんね?」
「もちろんだよ。」
「それは良かったです。それでは早速ですが、本題に入らせていただきます。」
「先日、姉が落ち込んだ様子で帰っていましたが、何か心当たりのある事はありませんか?」
「心当たり?……いや、何もないけど……悠ちゃんが落ち込んでいたのかい?」
心配そうに眉を寄せる高坂。
お前にそんな顔をする資格はない。
「えぇ、そうなんですよ。何かあったのかと聞きましたが、姉は教えてくれませんでした。ですが、どうやら運動会の競技種目に関する事ではあるようなんです。」
「運動会の……でも…いや、そんな……」
「姉は、運動会で二人三脚に出場するそうですね。……貴方と一緒に。」
「うん、そうだよ。でも、何でそれで落ち込んで……悠さんも嫌だとは思ってないはずだけど。」
「阿保かお前。」
「え?」
あ、いかんいかん。
落ち着け俺。
「コホン、失礼しました。何故、姉が嫌だと思っていないと考えたんですか?」
「いや、だって……嫌なら嫌と言うだろう?」
「お前、ほんといい加減にしろよ。」
ごめん、やっぱ無理だわ。
有罪確定っすわ。
「……え?」
「え?じゃねぇよ。嫌なら嫌だと言う?あの姉さんがその状況で言えるわけねぇだろ。それくらい考えろド阿保。」
「え、いや、え……えっと…?」
「お前が態々周りの人間を巻き込んで仕組んだ罠に姉さんを嵌めたんだろうが。その不自然さに姉さんが気付かないわけねぇだろ。」
「わ、罠?」
その自覚もねぇってのかよ。
「仕組んだのが誰かまではわかんなかったかもしれないが、姉さんは十中八九それが誰かの思惑である事は察してるはずだ。それでも……いや、知ったからこそ、姉さんは嫌だとは言えなかったんだ。おそらく、姉さんは自分を嫌っている誰かからの嫌がらせだとでも思っただろうな。」
「い、嫌がらせだって!?何でそんな事になるんだ!」
「望んでもいねぇ役を押し付けられたからだろ。しかも、明らかに徒党を組んで嵌められてるとなれば、それくらい考えてもおかしくない。だがそれだけなら大したストレスにはならなかったはずだ。望んでいないとはいえ、たかが二人三脚だ。少し我慢すればそれで済む話だからな。」
「が、我慢って……そんなに嫌がってるはずないだろ…?」
「どうしてそう言える?」
「だ、だって…それは……」
「"僕とペアだから"なんて気色の悪い事は言うなよ。んなもんナルシシズムの塊で自分に酔ったクソ野郎しか言えねぇからな。」
高坂は口をパクパクと開閉して絶句していた。
図星、か。
救いようのない奴だ。
「お前何様のつもりだ?世界中の女がお前に惚れてるとでも思ってんのか?残念だったな。世の中にはお前より優れた男なんざ掃いて捨てる程いるんだよ。自惚れてんじゃねぇぞクソガキが。」
胸に畝る熱がますます熱くなっていくのがわかった。
もう、俺は止まれない。
「ともかく、姉さんはただ種目を押し付けられただけだったらあんなに悩まなかったはずだ。だが、その後に続いた事が良くなかった。どっかの勘違いナルシスト野郎のお陰で、姉さんがどんな目に合ってるのか知ってんのか?」
「そ、その後?え、どういう事だい?」
高坂はいまにも泣き出しそうな情けない顔で困惑している。
この程度で泣いてんじゃねぇぞ優男。
姉さんの苦しみはこんなもんじゃねぇ。
「姉さんはな、出場種目が決まってからというもの、クラスの女子共から虐められてんだよ。無視、ハブり、陰口、今日だって姉さんは辛い目にあっていたんだろうな。」
「いじめだって!?は、悠ちゃんが、そんな!?」
「気安く名前で呼んでんじゃねぇよ。誰のせいで姉さんが苦しんでると思ってんだ?」
「いや、だって、そんな…ど、どうして…?」
この野郎、本気でわかってないんだな。
いいぜ、こうなったらとことんやってやる。
子ども相手だろうと容赦しねぇ。




