嫉妬と傲慢
「押忍!倉橋さん、お疲れ様です!」
「おう、優斗。お疲れさん。この間の話だよな?」
土曜の午前稽古の後、俺は先日と同じように倉橋さんに話しかけた。
「押忍、そうです。」
「1組のやつに色々と聞いといたぜ。だけど……」
倉橋さんが眉間に皺を寄せる。
小学生らしからぬ強面だ。
この人の風格はどこから出ているのだろうか。
「何かあったんですか?」
「いや……あんま気持ちの良い話じゃねぇが、いいか?」
「はい、教えて下さい。」
姉さんの為だ。
考えるまでもない。
俺は即座に頷いた。
倉橋さんの話によると、姉さんはいま、クラスの一部の女子から虐めのような扱いを受けているらしい。
原因はまさに運動会の競技種目、二人三脚だ。
高坂隼人とかいうイケメン野郎は大層おモテになるらしく、その高坂とペアを組む事になった姉さんに数人の女子が嫉妬大炎上。
姉さんはクラスの女子から嫉妬されたり、あからさまにハブられたり陰口を叩かれたりしているそうだ。
それも、男子にはわかりにくいように巧妙に隠しているとのこと。
何故それを倉橋さんの知り合いが知っているのかと問うと、なんとその知り合いは女子であった。
しかも保育園からの幼馴染だとか。
倉橋さん、女子の知り合いとかいたんだ……と思ったのは余談である。
ともかく、二人三脚が原因で虐められているというのが姉さんの現状である。
それで姉さんはあんな顔をしていたのか。
あの人は騒々しいのが嫌いだし一人でいるのも好きだが、人から嫌われたいわけではない。
この状況に胸を痛めているのだろう。
誰にも打ち明ける事もできず、たった一人で。
姉さんが悲しんでいた理由はわかったが、そもそも何故姉さんが高坂と組んで二人三脚をする事になったのか。
これに関しても倉橋さんは調べてくれていた。
なんと高坂は、クラスメイト達に協力を要請して、姉さんが二人三脚に出場するように画策したらしい。
姉さんが出そうな他の競技を一早く希望者で埋め、二人三脚を選ばざるを得ないようにしたとのこと。
そして片割れに自分が入る事で、姉さんとペアで二人三脚に出る事ができるようにしたのだ。
高坂がそんな事をしでかした理由だが、これは単純明快。
高坂が姉さんに惚れているからだ。
何て卑劣な野郎だ。
惚れた相手と組む為に外堀を埋めるなんて、小学生のやる事じゃねぇだろ。
今すぐそのクソ野郎を殴ってやりたい気持ちを抑えて高坂の性格等も聞いてみた。
倉橋さんも同じクラスだった事があるらしく、苦々しい顔で色々と話してくれた。
倉橋さん曰く、高坂は悪い男じゃないが思い込みが激しく、根が我儘な性格であるという。
昔から人の中心に立つ事が多かった為に、自分中心な考え方というものが根付いてしまっているのだろう。
善人ではあるが、"良いやつ"ではないと言っていた。
おそらく高坂は、今回の件も悪い事をしたとは微塵も考えていないだろうとのこと。
高坂にとって自分が惚れているという事が大事なのであり、姉さんの気持ちなど察せてはいないのだ。
クラスの女子共も、嫉妬するくらいなら協力しなければ良いのに、高坂に嫌われるのが嫌で唯々諾々と従ったらしい。
ちなみに倉橋さんの幼馴染さんは、高坂に惚れてはいないが特に断る理由もなかった為に協力してしまったのだとか。
倉橋さんを通じて俺と姉さんに謝りたいと言っていた。
話はあらかた理解できたが、ここで疑問が1つ。
高坂が姉さんに惚れた理由は何だ?
それだけは倉橋さんの幼馴染さんもわからなかったそうだ。
高坂から協力の要請がきた時に、クラスメイト達は一様に驚いていたとの事。
クラスのリーダーである高坂が、見た目は良いが無口で物静かな姉さんに惚れているというのは、クラス中に衝撃が走ったらしい。
はてさてどうしたものか。
これについては他の人に聞いたところで判明するとも考えにくい。
姉さんも答えてはくれないだろうし、そもそも姉さんも把握しているかわからない。
ならば方法はただ一つ。
本人に聞くしかない。
月曜の朝、適当に理由をつけて姉さんと凛より早く家を出た俺は、5年生の靴箱の前に立つ。
見つけた。
高坂隼人と書かれたテープの貼ってある靴箱の扉を開け、中に手紙を放り込んだ。
"守崎悠の弟です。姉の事でお話ししたい事があるので、今日の放課後、校舎裏にてお待ちしています。この件は姉を含め、誰にも知られないようお願いします。"




