寝取られるのはもう勘弁
「優斗、誕生日おめでとう。」
「おめでとう、ゆーちゃん。」
「おめでとー!」
パチパチと3人分の拍手が響く。
赤ちゃん用の高い椅子に座る俺はニッコリと微笑んだ。
「ありがと、とーさん、かーさん、ねーちゃん。」
自分でもパチパチと小さな手で拍手をする。
この日、俺は1歳の誕生日を迎えた。
この体に転生して、半年以上が経過していた。
そう、俺は転生をしていたのだ。
しかも前世で俺がクリアしたゲームの主人公として。
そのゲームの名は『NTRの奴隷〜ハーレムの崩壊に俯くだけの俺〜』という。
これはハイスペックながらも優柔不断な主人公が、周りの美女達が寝取られるのに何もできずに落ちぶれていくというPCエロゲである。
俺がまだ20代だった頃に発売され、元NTR好きの俺は狂ったようにプレイしていた。
その後、結婚した妻がリアルに寝取られて離婚してからは、反動もあってNTRを嫌悪するようになり、純愛こそが正義を掲げるようになった。
だがそれでも一度は熱狂したゲーム。
記憶にはしっかりと焼き付いており、間違えるはずもない。
この半年間で父母の話から拾った地名、そしてヒロインの1人である母の容姿、その母や姉、俺の名前。
どれも記憶にあるものと一致している。
この世界は間違いなく『NTRの奴隷』の世界であり、俺はその主人公である守崎優斗だ。
なぜ俺が守崎優斗に転生したのかはわからないが、このまま成長していけば母も姉も、それから現在母の中に宿る妹も、町内会のキモ男や大学のチャラ男に寝取られてしまうだろう。
それだけは絶対に嫌だ。
俺はもう寝取られの絶望を味わいたくないのだ。
俺の手で幸せにするなどとは考えない。
ただ彼女達には幸せになってほしい。
NTRもヒロインにとっては一種の幸せといえなくもないのかもしれないが、俺は断固否定する。
母も姉も妹も、それからまだ見ぬヒロイン達も、真っ当な幸せを掴んでほしいのだ。
その為には俺の今後の行動が鍵となる。
あえてヒロイン達に接近しないという手もあるが、それだけでNTR回避できなさそうなヒロインもいる。
少なくとも家族は絶対に守らなければならない。
これからの成長に当たって、計画的に自身の能力を育成しどんな状況にも適応できるようにするのだ。
この世界がNTR系エロゲの世界だと気付いた時点で、俺はその覚悟を決めていた。
「ゆーちゃん、はいケーキ。」
姉の悠がフォークに乗せたケーキを俺の口元に差し出す。
俺は小さな口を大きく開けてパクリと食いついた。
「んぐ…もぐ……ありがと、ねーちゃん。おれもあげる。」
「あーん…んぅ、おいしい!」
お返しに姉さんの口へケーキを運ぶと、パクリと食べて頬を緩めた。
小さくとも女。
甘いものは好きみたいだ。
「優斗が産まれてもう1年……いや、まだ1年か。それなのにここまではっきり喋るとは……我が子は天才だな。」
俺と姉さんを見ていた父さんがそんな事を言った。
自分が転生したと自覚してから、俺は少しでも早く自力で行動できるよう訓練を欠かさなかった。
そのお陰で立つのも歩くのも、喋るのも平均よりかなり早かったようだ。
「そうねぇ…はるちゃんの時はもう少し遅かったけど……ゆーちゃんは凄いわねぇ。」
おっとりとした優しい声音の母、咲苗がケーキを頬張る俺の頭を優しく撫でた。
それを見た姉さんが小さくむっとしたのを見て、俺は姉さんの頭に精一杯手を伸ばす。
やや色素の薄いサラサラの髪を指先で撫でた。
「ねーちゃんも、よしよし。」
「あっ、ゆーちゃん……えへへ」
目を丸くした姉さんがとろけるように笑う。
目つきが少し鋭い姉さんだけど、笑うと猫みたいで可愛い。
「……将来が恐ろしいな。」
姉の機嫌を取るように撫でる俺を見て、父は苦笑していた。