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ペペロンチーノな昼下がり

「ただいまー……あれ?」


土曜日、朝から道場に行って空手の稽古をして昼に帰宅すると、見覚えのないスニーカーがあった。

凛が履いているような可愛らしさ満点のと比べるとスポーティーな感じのスニーカーだ。


「誰か来てんのかな?」


呟きつつ靴を脱いで2階に上がる。

去年までは俺と凛で1つの部屋だったが、凛の入学と同時に各自部屋を持つ事になった。

ちなみに俺の部屋は父さんが仕事に使っていた部屋で、広さ的には姉さんや凛の部屋よりも広い。


2階の端にある自分の部屋に入ろうとしたところで、階段を挟んで向かい側の扉が開かれた。

その音に反応して振り返ると、我が愛しき妹が顔を出した。

俺を見てにこやかに笑う。



「おにいちゃん!おかえりなさい!」


「ただいま、凛。誰かお友達が来てるのか?」


玄関にあったスニーカーを思い浮かべた。

姉さんは出かけている為、考えられるとしたら凛の友達だろうと思った。


「うん、そだよ!みおちゃんが来てるの!」


「あ…おじゃましてます。」


凛の後ろからヒョコッと顔を出したのは、1ヶ月ほど前に知り合った1年生の少女、支倉美緒であった。

彼女は凛の隣のクラスであるが、あれから2人は顔を合わせれば話すようになったらしく、休み時間や放課後などもよく遊んでいるらしい。

こうして家に呼ぶまでになったのは驚いたが、妹に仲の良い友人ができたというのは嬉しかった。



「美緒ちゃん、いらっしゃい。凛と仲良くしてくれてるみたいだね。ありがとう。」


「ううん。うち、りんちゃんとあそぶのたのしいけん。」


爽やかな笑顔がよく似合っている。


「いまみおちゃんとトランプしてたの!おにいちゃんもやろ!」


「お、良いのか?」


美緒の顔を見て反応を伺う。

無いとは思いたいが、もし嫌そうだったらやめておこうと思ったからだ。


「うちもゆうとくんとやりたい。」


裏表のなさそうな笑顔。

良かったぜ。


「それじゃお言葉に甘えて…と言いたいけど、シャワー浴びてくるよ。汗かいたし。」


「わかった!まってるね!」


「ゆうとくん、どっかいっとったと?」


「おにいちゃんは空手やっててね……」


そんな声を背に、俺は部屋に荷物を放り投げて浴室へ向かった。






「うぅ…またまけちゃった……」


落ち込んで俯く凛の頭を撫でる。


「た、たまたまだよ。次は勝てるって!」


「それ、さっきも言ってたよ…」


「りんちゃんわかりやすいっちゃもん。」


それは言わないであげてくれ美緒ちゃんや。

確かに凛はJOKER(ババ)を持っていたらクスクス笑うし、こちらが凛の手札を引く時も露骨に反応をするが、そんな風に言ったら可哀想だ。

なんて言いながら、しょぼくれる凛が可愛くて負けてやらない俺。

我ながら最低だ。


「次こそりんがかつんだもん!」


「その意気だ凛!」


「なんかいやってもわかるんやけどね。」


いや、だからそれ言っちゃ駄目だってばよ。

これ以上負けたら凛が泣いちゃうから。

流石に泣かれると困るので、そろそろ負けてあげるか。




というわけで負けました。


「やったー!おにいちゃんにかったー!」


「ぐぬぬ…やるではないか妹よ。」


「ゆうとくんわざとまけ「美緒ちゃん!お腹空かないか!?」むぐっ……」


それ以上はいけない。

純粋な子の夢を壊すのは、"ピカチュウがライチュウに勝てる訳ないじゃん"と言うのと同じくらいしてはいけない事なのだ。



「りん、おなかすいた!」


「…そういえばうちもペコペコ。」


「美緒ちゃんは夕方くらいまでいるの?それならお昼一緒に食べようか。」


「え、でも…」


「そうしようよ、みおちゃん!おにいちゃんのりょうりはおいしいよ!」


「えっ……ゆうとくん、おりょうりできるん?」


「少しだけね。」


去年から母さんが料理する時に手伝ったりしていたが、その腕が認められついに今年から1人でも火や包丁を使う事を許されたのだ。

しかし、厳重な注意を払う事と、凛を近付けない事が条件である。

まぁそもそも1人でキッチンに立つ事など、母さんのいない土曜の昼間くらいしかないのだが。



「何か食べたいものある?」


「ペペロンチーノ!」


「え、また?」


2ヶ月前に初めて作って以来、凛は事あるごとにペペロンチーノを強請るようになった。


「だっておいしいんだもん。」


嬉しすぎて泣きそうになった。

妹の為ならペペロンチーノの海だって作れそうだ(錯乱)


「美緒ちゃん、ペペロンチーノってわかる?」


「わからん。」


「パスタなんだけど…麺は好き?」


「だいすき!」


前のめりの肯定。

福岡出身だし、豚骨ラーメンとかうどんとか好きだったのだろうか。


「何か苦手なものはある?」


「めんたいこ…」


おい、元福岡県民。


「…タラコスパゲティじゃないから大丈夫だね。なら作ってくるから、部屋で待ってて。」


「はーい!」


「ありがと、ゆうとくん。」






「なんこれ!めっちゃおいしいやん!」


「おにいちゃん、おいしいよ!」


「そうかそうか。どんどん食べなっせ。」


冷蔵庫にあったベーコンとアスパラを具にしたペペロンチーノ。

子ども向けにニンニクと鷹の爪は極少量にしてあるし、辛くないように胡椒もやや控えめだ。

その代わり、隠し味としてダシ醤油をちょっと加えている。

ベーコンの脂や旬のアスパラの甘さとシャクシャクした食感も合わさり、なかなか良いものになったと思う。


「んー!おいひぃ!!」


頬をパンパンにした凛が体を震わせる。

美味しそうに食べてくれるのは嬉しいがその食べ方はやめろ。

喉詰まるから。


「りんちゃん、いっつもこんなん食べとると…?」


何やら美緒ちゃんが愕然としているが、流石にいつもは作ってないから。




昼食を終えた後は雑談をしたり、おもちゃで遊んだり、子ども向けアニメのDVDを観たりした。

今日だけで随分、美緒と打ち解けと思う。

穏やかな昼下がりであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] みおちゃんの方言が最高です。 [気になる点] ピカチュウでもマチスになら勝てる。(レベル上げて物理的に)
[一言] ポケモ〇のところを伏字にしない強気な姿勢が大好きです
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