吾輩の仕事。 それは~
この文はある文章から着想を得て創作したものです。
何かに似ている。と思ってもそれはきっと気のせいなのです。
あしからずお願いします。
吾輩がこの店で働きはじめてからもう三十年以上もたってしまった。
もともと京都の由緒ただしい│大店で客寄せをしていた。
その大店もいまはもうない。リーマンショックで大打撃をうけてなくなってしまった。
そうして路頭に迷った吾輩を拾ってくれたのがこの店の主人だ。
これからでどうなる事かと不安にさいなまれていた当時の吾輩の希望となった主人には、感謝してもしきれない。
もともとお金を持つことはほとんどなかったので移動はもとの主人の車に便乗するのが常だった。
もとの主人もよく吾輩を重用してくれていた証明だと、今でも誇らしく思っている。
今では車に乗ることもなくなったので、さみしい気もする。
では吾輩の日常業務を紹介しよう。
主な業務は、吾輩自らが直接店頭に出向いて客寄せをする事だ。今も昔もこれ以外の仕事をしたことは無い。
その時には柔らかくにっこりとした笑みを浮かべているのがミソだ。にこにこしていればお客様は入ってくださる。笑みを浮かべることにかけてはこの道何十年かにはなる。
もはやベテランの域だ。
身だしなみも重要だ。常に清潔でいるのは飲食店の店員として当然のことだ。飲食店だからと油っぽい臭いがついてもいけない。
だから消臭についてはとても気をつかっている。
だから吾輩は人気者だ。小柄だからなのか女子高生に頭を撫でられたこともある。
しかし、最近の若者はどうにも礼儀というものを知らないらしい。来店するお客様で若い人たちはみな挨拶もせずにスマートフォンという新手の携帯電話を弄りはじめる事が多い。
無遠慮にもカメラのフラッシュを焚いてきたこともある。
吾輩は強い光は苦手だ。目がチカチカするのだ。
油ものを食べた手を拭きもせずに触ってくる青年もいた。
一昔前の日本人はもう少し物事の理非をわかっていたような気がする。
その点この店で働きはじめてからの友である彼はきちんとしている。
彼はいつもゆったりとした着物を着ていていつもニコニコ笑っている、従業員の鏡である。
ふくよかなビール腹は生まれもってのものらしいが、不思議な事に時折神々しい感じがするのだ。
それはいいのだが彼にはひとつだけ不満がある。それは10月と正月は必ず失踪してしまう事だ。
いくら注意してもその点を直そうとしない。
まったく彼にも困ったものだ。
その点吾輩はピシッとしている。
365日欠かさず店頭に座っている。愛用の座布団はいつもふかふかで呼び込みも熱が入ろうものだ。
そんな吾輩だが最近悩みがある。
最近声が渇れてきたのだ。おそらく歳かと思うのだが、これでは店の迷惑になってしまう。いっこうに治る気配が無いのでもうそろそろ治しに行くつもりだ。
以上が吾輩の日常業務だ。
何かと辛いことも多いが地元定食屋の電子音声呼び込み機能付き、招き猫として誇りをもって仕事を出来ている。
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