昔話
20年ほど前ソローは魔術師の家に産まれた
魔法学校はあってもまだ偏見の強い時代でしたが、
ソロ―の家系は積極的に他人の手助けをする魔術師だったのと
他の魔術師と比べても価値観が一般人に近かったため、
特にいざこざもなく仲良く暮らしていました
「お前はなりたいものになるといいよ」
父は息子が自分の後を継ぐことにあまり執着しませんでした
ただ、魔術って色々できて素敵だし格好いいし自分もああなりたいな、
とソローは幼い頃から魔術師を目指して邁進し
魔法学校に入る頃にはもう3年生の勉強をしていた
「ありゃあ天才だ、才能もあるのに努力もできる」
「将来は天位に付くかもな……」
天位とは、簡単に言うと超ランクの高い魔術師を指す言葉です。
前に雷の魔術師とか水の魔法使いとか言われてた人達がそれで
経済や政治の面でも無視できない存在なのです。
当然実力者の中の実力者で特定の自然の完璧な支配に至った者だけがなれます。
ソローは魔術のことをよく知っていただけにそれは流石に難しいと思いつつも
どこかなれたらいいな……と思っていたのでした
ある日のこと
いつものようにソローが勉強に励んでいると
コツ……コツ……
家の外の壁に何か当たる音がします
(これはアレだな……)
ガチャ
ソローは2階から窓を開けて、家の壁に石を投げてる犯人を見つけました
「なにしてんのさ、ゴールド姉ちゃん」
ア ソボ-!
ゴールド王妃はよくソローの家に遊びに来たのでした
「……今日の勉強はここまで!」
ダダッ!
階段を駆け下り玄関のドアを……その前に少し服正して
それからドアを開けました
「いらっしゃい姉ちゃん、今日は何をするの?」
「高原の方で花を探したいの!ソロ―って植物に詳しいから!」
ソローの特技は植物の魔術でした
いつかは完成系に持っていきたいと思っていました
「姉ちゃんは花がほんと好きだね」
広げられた図鑑の中で指さされた紫の花
とても珍しく見つけた人は幸運になると言われていました
高原で花探し
手を植物と土の臭いで一杯にして汗をかきながら探しましたが
見つかりませんでした
「見つからなかったね……」
帰り道を行く途中
「あっあそこの崖……」
見ると崖の壁面に目当ての花を見つけたのでした
「流石に届かないね……」
下からも崖の上からも簡単には採れないところにその花はありました
その頃はまだ植物を急成長する魔術も獲得していませんでした
なので適当に伸ばして花まで手を届かせることもできません
ソロ―はどうにかしてあげたいと思いました
ゴールドを喜ばせて、自分のことを特別に想ってほしいと……
(そうだ……!僕の魔術を使えば……!)
数日後
「姉ちゃんこれあげる!僕が作ったんだ!しかも何年たとうがずっと綺麗なままだよ!」
ソローは得意げにその紫の花をプレゼントしました
「ありがとう!大事にするね!…………でも」
「でも……わたしは自然に生えてる花のほうが好きかな……」
「……?」
ソローがその意味を理解するのには時間がかかりました
魔術師とは物事の完璧な支配を求める存在
ソローにとってそこらに生えてるものに自分の努力の結晶が劣るなどと思っていなかったのでした
完璧であるものに価値が無いなら
自分は何のためにこんなもの学んでるんだろうか……
(植物の魔術の完成形って何だ……?)
ソローは自分のあり方を疑問に思うようになったのでした
何日かして崖から紫の花が無くなっていました
なんでも偶然ゴールドと知り合った王子が全身土まみれになりながら頑張って根っこごと採って
それをゴールドにプレゼントしたのでした
(えっ……誰お前……)
そんなことを少し思いましたがすぐに
あぁ……そりゃそうだよな……
という気持ちになりました
(なんで僕はああできなかたんだろう……)
と土まみれのままにこやかに笑いかける王子を見て思ったのでした
同時に
自分が見たことのない笑顔を王子に向けるゴールドを見ながら
(自分よりも……あの王子のほうがずっと姉ちゃんにふさわしいんだろな……)
と思いました
(幸せなら……まぁ……いいか……)
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――
―税関―
「この毒薬の侵入経路を探してるんです。国を行き来する商人を相手する貴方なら何かわかるかもしれない」
「あ~結構な数いるからどうだろう……守秘義務ってのもあるし……」
「国の一大事なんです。教えてください、最近怪しいやつがいませんでしたか?」
「待っててくれ……一年分さかのぼって入国履歴を持ってくるから……」
少しするとうず高く積み上がった書類をまとめたものが出てきました
「この中から探すのかい?さすがに無茶だろ……手伝おうか?」
「いえ、大丈夫です……ありがとうございます」
パラパラとページをめくっていきます
(あんな長期間効く毒では無いんだ……どこかで補充する必要がある……)
(何回か怪しいやつが来てるはずだ……必ず見つける……ゴールド姉さんを苦しめた犯人を……)
(見つけ出して……必ず始末してやる……! )