表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どらどら  作者: 桐 芳乃
1章、拾われたどらどら
8/55

8、冒険者組合-3

「あ、そうだ。アイス竜皇国(氷の国)で集まった素材、鑑定してもらわなきゃな」


 アルフォンスがそう呟いて、先程わたしを失礼にも二度見した、丸眼鏡のお兄さんのいるカウンターに向かって行った。見た感じ、アルフォンスも他の面々も大きな荷物なんて持っていないけれど、嵩張らない小さくて高価な鉱石などなのだろうか。


「エステレラも見たいの?」

「きゅ」


 首肯すれば、イドラちゃんはカウンターに連れて行ってくれた。


「鑑定と買い取り頼む」

「巨大な素材はありますか?」

「あー、ある。と思う」

「では解体場で鑑定をしますね」


 先程から、アルフォンスとやりとりをしながらちらちらわたしを見るお兄さんの視線も気になるし、アルフォンスはやはりどう見ても巨大な素材なんて持っていない。わたしは首を傾げた。


「むぐっふ」


 すると、お兄さんが変な声を漏らして咽せた。

 それを見たイドラちゃん、何を思ったか、わたしの脇の下に手を差し込んで持ち上げるあの姿勢になった。何故かお兄さんの方にわたしの顔が向くようにして。

 その上、振り子のようにわたしを揺らし始めた。安定感を無くした後ろ足が虚しく空を掻き、尻尾がゆらゆら揺れる。


「うぐっ。……何だこの可愛い生き物」


 やはり咽せるお兄さん。心なしか顔が赤い。ぼそぼそと何か呟いていたけれど、早口すぎて分からなかった。


「何やってんだ、イドラ?エス坊の腰に負担掛かるだろ」

「エス坊って何さ!エステレラでしょ!」

「いや、言いにくいんだよな」


 言い合う2人を尻目に、わたしはお兄さんと視線が合い続けている。気まずい。


「あのう……」

「きゅ?」


 お兄さんが沈黙に耐えかねてか、話し掛けてきたけれど、イドラちゃんもアルフォンスも言い争うのに夢中で気付かない。なのでわたしが返事をしてあげた。

 お兄さんはわたしの鳴き声に目を瞬かせ、恐る恐るといった風に言葉を重ねる。


「古代竜、ですよね?」

「きゅ」


 問いかけに対して頷くと、手に取るように困惑が伝わってくる。何故この古代竜は喋らないのか、と思っているようだ。

 悲しい事に説明出来る口を持ち合わせていないので、イドラちゃんとアルフォンスに向かって鳴いて、存在を主張した。


「きゅー!きゅっきゅい!」

「大体ーーん?あ、ごめんごめん」

「素材の鑑定を頼むんだった。悪いな、無駄にカウンターの前占領して」

「い、いえ……今は空いているので……」


 イドラちゃんとアルフォンスにもわたしの考えは当然伝わらず、わたしは項垂れた。言葉とは偉大である。




 解体場とかいう場所は、至る所に血飛沫の跡が染み付いていたり、切れ味の良さそうな刃物が並んでいたりした。

 アルフォンスは腰にぶら下げた小さな袋から、ずるりと、身の丈以上の生き物の死骸らしきものを引っ張り出した。


【アイテムボックスだーー!】


 頭の中の声に被せるように、イドラちゃんが説明してくれた。


「ああ、エステレラは収納袋見るの初めてか。見て分かると思うけど、袋の見た目以上に入る便利道具だよ。結構高いけど、あたし達稼いでるから!」


 そう言うイドラちゃんの腰にも、同じような袋が2つもぶら下がっていた。


 わたしが説明を受けている間に、アルフォンスは大量の内容物を台の上に並べていた。


「今出したのは全部買い取ってくれ」

「……やはりリュウモドキ素材が多いですね。仕入れようとするとどうしても高くなるので、助かります」


 一番巨大な死骸は、アルフォンス3人分くらいの全長だった。全体的にとかげみたいな見た目の死骸が多い。その他に、謎の葉っぱや謎の石のような、一見して売れると分からない物もある。


「ええと、この量なら……状態もいいですし、金貨60枚でしょうか」

「お、それなりだな」

「お小遣い稼ぎにしては上々じゃん?」


 金貨の価値が分からないから何とも言えないけれど、2人は平然としているし、お小遣い稼ぎという言い方からしてそう大金でも無いのかもしれない。

 しかしお兄さんは苦笑した。


「はは……普通の冒険者だったら、金貨30枚稼いだだけで当分仕事はせずに遊び暮らしますよ」

「ま、俺達はホームが決まってない分、色んな国からの要請を受けられるし……冒険者しつつ勇者やってれば二重に稼げるからな。他の勇者は誇りが〜とか言ってるから肩書きの割に稼ぎが少ないんだよ」

「冒険者組合からしたら、勇者御一行に素材も売って頂けて依頼もこなしてもらえるんだから、こんなにありがたい話もありませんけどね」


 ……結局金貨はどのくらいの値段なのだろう?まだまだ分からない事だらけだ。




 帰りについでとばかりに、氷の国・アイス竜皇国からの報酬金として、金貨500枚分を窓口で受け取っていて、本気で貨幣価値が分からなくなった。白金貨という貨幣を5枚受け取っていたから、金貨500枚=白金貨5枚。白金貨がべらぼうに高価な事は分かる。

 あまりにきらきらと綺麗なお金だったからだろうか、近付きたくてうずうずしてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ