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どらどら  作者: 桐 芳乃
1章、拾われたどらどら
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4、拾われ竜-3

 ふ、と目が覚めて、わたしは体を起こした。どうやらわたしは、毛布が敷き詰められた籠の中に寝かされていたようだ。

 カーテンの隙間から射し込んでくる月明かりの他に光源は無く、部屋の中は静まり返っている。きょろきょろと見回してみたら、ベッドが2つあって、万里乃さんとイドラちゃんが寝ていた。

 万里乃さんは全く身動ぎせずに静かに寝入っていて、イドラちゃんは布団を跳ね除け、お腹も丸出しだ。風邪を引かないか心配になってしまう。


 わたしは窓辺によじ登って、カーテンの向こう側に潜り込んだ。

 この家は街中にあったようで、雪で白く染められた通りや建物が並んでいるのが見える。月は驚く程大きくて、屋根の上に降り積もった雪が月光を反射して、静かにきらきらと輝いていた。

 わたしは思う存分月光浴してから、ほのかに温かい寝床に潜り込んだ。




 * * *




 ーー真っ暗だ。

 果ての無い暗闇の中、ぼんやりと光る、わたしの体と……向かい側にいる女性。

 女性は立っているので、顔を見ようと思ったら、わたしは首を目一杯伸ばして上を見上げなくてはいけない。

 しかし、見上げても女性の顔は分からなかった。影のようなもので隠れているのだ。

 女性はイドラちゃんよりも少し長い黒髪で、万里乃さんと比べるとかなり小柄に見える。


【ーーあれ?何でここにいるの?】


 目は見えないのに不思議と、彼女がわたしを見下ろして、きょとんとしているのが分かった。


【もしかして今日は外、満月だったのかな?】


 女性はしゃがんでわたしに手を差し伸べた。辛うじて見える口元が、笑みを形作った。


【もうここに来れたのは凄いけど、まだその体には負担だからね。さ、お行き。もっと大きくなったら一杯お喋りしようね】




 * * *




 次に目覚めた時、真っ先にイドラちゃんの顔が視界一杯に広がっていた。


「あ!起きた!おはよ、おちびさん」

「んきゅ」


 イドラちゃんに抱っこされながら、わたしは先程の夢を反芻する。

 あの女の人は誰だったのだろう。たまに聴こえる頭の中の声と同じ声だった気がするけれど。

 またあの声が聴こえないかと思って、意識を集中させてみるけれど、こういう時に限って、声は沈黙を保っている。


「今日はね、あたし達のリーダーが帰って来る筈だから、おちびさんにも紹介してあげる!」

「きゅう?」

「うん、そう。頼りないけどやる時はやるリーダーだよ」


 開け放たれたカーテンの向こう、窓の外は、雪が日光を反射して、光が目に突き刺さるようだった。


「あーあ。早く大大陸だいたいりくに戻りたいなぁ。全く、寒いったらありゃしない」


 廊下を歩きながらイドラちゃんがぼやいて、体をぶるりと震わせる。わたしは暖かな自前の毛皮がある上に、イドラちゃんに抱き締められているからそうでもないけれど、イドラちゃんは寒そうだ。


 目的地は昨日の暖炉がある部屋だった。

 既にエリアさんとギャリックさん、万里乃さんはきちんと身支度が整っていて、暖炉から少し離れた場所にあるソファーで寛いでいた。

 イドラちゃんもソファーに座り、分厚くて難しそうな本をどこからともなく取り出して読み始めた。わたしはソファーの上に放流されたので、イドラちゃんの膝の上に乗ったり、万里乃さんの太腿に顎を乗せたりしていた。


「ただいまー」

「あ、アルおかえりー」


 緋色というとても目立つ色の髪の青年が現れた。わたしが思わず頭を持ち上げると、青年もわたしを見て、視線がばちっと合う。

 髪の毛の色こそ凄いが、それ以外は人の良さそうな、ちょっと頼りなさそうな雰囲気だった。黒っぽい深緑の瞳で、目尻が垂れ気味。やや痩せ型なくらいで、身長も、高すぎも低すぎもしない。

「あれ?竜?拾ったのか?」

「ソレは古代竜だ」


 読書の体勢のまま、目を上げもしないエリアさんが答える。


「はあ!?古代竜!?」

「そ。だからアル、この子を郷に返しに行こうよ!」


 イドラちゃんが元気良くそう言うと、青年は頭を抱えて唸った。


「……誰か俺に詳しい状況を教えてくれ……」




 万里乃さんが事のあらましを語り、青年もわたしに自己紹介をしてくれた。


「俺はアルフォンス。一応炎の勇者やってる」


 アルフォンスは親切にも、わたしが勇者について分かっていない様子なのを察知して、説明してくれた。

 曰く、勇者とは大昔には魔王を倒す存在だったらしいが、今でいう勇者とは、光の国・リヒト教国が認定している、聖なる武器を持つ資格がある者の事をいうらしい。勇者は炎、水、大地、風、光、闇の属性にそれぞれ特化しているのだとか。アルフォンスは炎特化だが、普通の人が使える簡単な他属性の魔術が使えない程尖っているようだ。

 勇者達は基本的に気の合う仲間と旅をしていて、国々からの依頼などをこなしているらしい。


「なるほどなぁ……どうせ人助けの旅なんだから、古代竜の郷を探すのも面白そうだとは思う。でも……」

「ああ、ダリア?」

「そう、ダリア。あんまり長い間留守にすると、嫌がるだろうなぁ……」


 情けない声で嘆くアルフォンスを、イドラちゃんはけらけらと笑う。


「ご機嫌取り、頑張れ!」

「他人事だと思って……」


 恨めしげな目でじっとりとイドラちゃんを睨めつけたアルフォンスは、溜息を吐いてから背筋を伸ばして、宣言した。


「じゃあこれからの方針だ。古代竜の郷についての情報を集めながら旅をする、以上!」

「つまりいつも通りという事じゃな」

「そうとも言う」

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