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どらどら  作者: 細雪
1章、拾われたどらどら
39/42

39、月華草と世界樹の枝

『ほわ……』

【わあ……】


 月華草は、想像以上にとってもきれいで、はかなげな花だった。


 薄暗い森の中、その泉の中に、月華草は咲いていた。

 はなびらがほのかに青白く発光していて、それが鈴なりにいくつも下を向いて咲き、ゆらゆらと揺れている。


『すずらんみたい』

【あ、分かる】

「すずらん?」


 わたしの呟きを聞いたイドラちゃんが、こてんと首をかしげた。

 この世界にすずらんはないのだろうか。


「さっそく採取したいところだが……」


 アルフォンスが言いよどむ。


『なにかもんだいあるの?』

「ほら、これ」


 アルフォンスが見せてくれたのは、しなびて茶色くなったすずらんのような花。話の流れからして月華草なのだろう。


「水面から持ち上げたとたんに枯れたんだよな……」

「泥と水ごと採取するのがいいのでしょうけれど、ね」

「小さめの樽に入れるとか?」

「いっそ水ごと凍らせるのも手でしょう」


 万里乃さんの呟きに対して、イドラちゃんとスーラが提案する。


「うーん、じゃあいちおう両方の手で採取してみるか。水ごと樽にしまうのは枯れるのが怖いし、凍らせると溶かした時に大丈夫かわからないからな」


 というわけで、ギャリックさんが持っていた、お酒の空き樽をよく洗って水と泥ごと採取し、同時にイドラちゃんが1本の月華草の周りだけ器用に凍らせて、両方とも収納袋にそっとしまった。

 スーラもアクア女王様にあげるのだといって、1本凍らせていたけれど、月華草はまだまだたくさん生えていたから問題ないだろう。


「いよっし。じゃあ日が暮れる前に街に戻るか」


 アルフォンスの号令で、わたしたちはぞろぞろと歩きだした。

 ほぼ伝説のような存在を見つけ出したことで、炎の勇者一行も水の勇者一行も、そわそわとどこか浮足立っている。

 あのエリアさんですら、万里乃さんと月華草について話し合っているのだから、あの草がみんなに与えた衝撃というのはものすごかったのだろう。




 借家に帰りついて、一同がリビングに集まる。水の勇者一行は空気を読んでくれたのか、さっさと引き上げていった。


 そして、炎の勇者一行の視線は自然とヒリンさんに集まった。

 視線を受け、ヒリンさんはうなずく。


「……ええ、はい。月華草を無事入手したといういことで、炎の勇者一行のみなさまは妖人族、ひいては世界樹のありかを知る権利を得ました。人格も、私は問題ないと判断します」

「じゃあ……」


 ヒリンさんは厳かに、言った。


「お教えしましょう、世界樹の元への行きかたを」




 ――10日後――




「だあああっっ!」


 わたしたちは森の中を疾走していた。


「だから言ったじゃん!ヒリンさんにも来てもらった方がいいって言ったじゃん!!」

「アルフォンスったら変なところで気を遣うんだものね」


 イドラちゃんが悲鳴に近い声でアルフォンスを非難する。全力疾走しながら全く息を切らしていない万里乃さんも、頬に手を当てながら、おっとりと困り顔をしている。


『待て!八つ裂きにしてくれる!』

『同胞を守るのだ!』


 妖人族は、つまり妖精さんだった。

 普人族よりもずいぶんと小さい、というか、普人族よりもわたしに近いサイズ感で、背中に蝶々やとんぼのような翅が生えている。


 そんなメルヘンな見た目の彼らは、その愛らしさからよく他種族、主に普人族に狩られて、愛玩動物のようなあつかいを受けていたことがあるらしい。エリアさん談。

 なので、久しぶりに遭遇した他種族、つまりわたしたちを見てトラウマスイッチがオンになってしまったのか、話も聞き入れようとせず、わたしたちを排除しようと襲いかかってくる。

 妖人族たちからしたら、わたしたちを1人でも逃がせば、安息の地を奪われてしまうのと同義なので、必死の形相だ。こわい。



 そんなこんなで妖人族とエンカウントするなり、追いかけまわされ続けたわたしたち。

 もはや現在地もわからず、逃げまどっているうちに、幸運の神様はわたしたちに微笑んでくれたらしい。急にひらけた場所に出たと思ったら、壁が急に現れて……ここまでかと思ったところで、妖人族のひとりがうめいたのだ。


『……まさか貴様ら、世界樹が目当てで……!?謀ったな!!』

「え?」


 思わずといった風に声をもらしたイドラちゃんと一緒に、壁だと思っていた白っぽいものを見上げると、遥かかなた、上空で、青々とした葉が茂っているのがうっすらと見えた。


『ま、まさかこれ……』

「世界樹だ!?」

「ほお、幼いころに絵本で見た世界樹に似とるの、たしかに」


 ギャリックさんがのんびりと感心しながら、頭上の葉を見上げる。


【エスちゃんエスちゃん、バオバブの木っぽくない?】


 あ、わかる。


「これが世界樹……?でかすぎだろ、枝も取れる気がしないぞ」

『ふん!やはり密猟者ではなく盗人だったか!世界樹は認めた者以外は触れることすらかなわぬ!わかったらおとなしく世界樹の肥やしになるがいい!』


 触れない?こんな大きなものに?

 わたしは好奇心100%で、イドラちゃんに頼んで世界樹に近づいてもらった。


『はじかれるのかな?かべみたいなのだったりして!』

「痛そうだったらすぐに手を引っ込めるんだよ?エステレラ」

『な……っ!貴様らなにを!薄汚い手を世界樹に近づけるな!』


 そっと手を伸ばす。とくに邪魔は入らない。

 さらに手を伸ばして……わたしの前足は、ぺたりと世界樹の幹に触れていた。


 世界樹は、触っているとなんだか心が安らぐ効果があるようだった。


「……あれ、さわれたね?」

『わあ、すごい。あんしんするぅ』

『ば、ばかな……』


 でも、さわれたって枝が手に入るわけじゃない。

 わたしは、首をかしげた。


【おねがいしてみればどう?何事も対話からだよ】


 美奈がそんな事を言うので、わたしは世界樹におねがいしてみた。


『えだ、ください』


 次の瞬間、ごん!ごん!ごん!!と(世界樹のサイズから見て)細い枝が降ってきた。人がいない場所に降らせてくれるあたり、気遣いできる樹だ。


『わあい、ありがとうせかいじゅさん』


 わたしはイドラちゃんの腕の中で、ご機嫌で尻尾を振ったのだった。


読んでくださりありがとうございます。


ギュインと急展開でお送りしております!

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