38、水の国、辺境都市-3
「今日はオレが相手だぜ、古代竜!よろしくな!」
『えすてれらだよお』
今日はやんちゃそうなお兄さんがわたしの担当らしい。
お兄さんは、握手のつもりなのかわたしの前足を握ってふりふりしながら、にかっと笑った。
「おう!じゃあエスだな!言いにくいし。オレはキリな!」
『うん。きりはりゃくしかた、みなといっしょだね』
「みな?」
『うん、みな』
キリは首をかしげていたけれど、わたしは説明しようがないので放っておいた。
『それより、きょうはなにする?』
「あ、ああ。昨日はなにしてすごしたんだ?」
『てんいのれんしゅう!』
「はっ!?あんな苦行をやったって!?おまえちっこいのに根性あるな!?」
『それほどでもぉ』
やけに驚くと思っていたら、どうやらキリは転移を習おうとして挫折したくちらしい。
「大の大人だって音を上げるんだぜ、あれ」と、いいわけがましく言っていた。
「……うっし!昨日がんばったなら今日は遊ぶぞ!」
『なにしてあそぶの?』
「ふっふっふ……。それはついてからのお楽しみ、ってな!」
キリはわたしをひょいと抱きあげ、外にでて歩きだした。
いったいどこに行くのかと思っていたら、案外すぐに立ち止まった。視線の先には10人くらいの子どもたちがいる。
子どもたちの方も、早々にキリに気づいて、わっと駆け寄ってきた。
「キリだ!」
「ひさしぶりじゃん!」
「今日はなにして遊ぶー?」
「よう!ひさしぶり……ってほどでもなくね?まあいいや。今日もオレと一緒に遊んでくれるか?」
子どもたちとキリは顔見知り……というよりは、遊び友達のようだ。キリはなにを思って彼らに声をかけたのだろう?
「しかたないなあ!……と言いたいところだけど。でもキリ、今日はおれたち遊ばないんだよ」
「んお?そうなのか?じゃあなにすんだよ」
「修行だ!」
ちょうど振り回しやすそうな木の枝を誇らしげに掲げたのは、いかにもガキ大将っぽい男の子。まわりの男の子たちもそうだそうだと、目をきらきらさせている。
残りの半数、つまり女の子たちは、半眼でしらーっと男の子たちを眺めていた。どうやら彼らと彼女らでは、温度差があるようだ。
「修行?へえ、いい心がけだな。この!水の勇者一行の一員である!オレも協力してやろう!!」
「そうこなくっちゃ!」
男の子たちは歓声をあげるけれど、面白くなさそうなのは女の子たちだ。
「ええーっ、キリったらこの前も棒遊びしてたじゃない!あたしたちとお花摘みにはいつ行ってくれるの!?」
意外なことに、キリは女の子にも人気らしい。
【年上の、一緒に遊んでくれるお兄さんなんて憧れの的だよ~!】
美奈が言うにはそうらしい。
わたしにはいまいちぴんとこない。わたしのまわりなんてみんな年上だもの。
【エスちゃんは恵まれた境遇にいるんだぞぅ!このこの~!】
美奈、ちょっとうっとうしい。
【がーん】
美奈が静かになったので、わたしはキリを見上げた。
『ねーきり、わたしはわたしは?』
「ん?おお、そうだったな!」
キリさん、さてはわたしのこと、忘れてましたね?
「わ、キリが抱っこしてるの、お人形じゃなかったんだ!」
「しゃべれるの?かわいい~!」
女の子たちが、ふくれっ面を放り捨てて、目を輝かせながら殺到してくる。
わたしの腰が引けたのがわかったのか、キリは「優しくしてくれよ?まだちっちゃいからな」と注意してから、女の子のひとりにわたしを預けた。
「うっわあ……!ふわっふわ!」
「目の色、すごく綺麗だね!」
わたしは、わたしに夢中な女の子たちにファンサービスをしつつ、ちらりとキリをうかがった。
自分も棒きれを持って、いっせいに飛びかかってくる男の子たちをいなすキリは、なんだか大層輝いて見える。
『まったく、しかたないなあ』
明くる日、わたしはあくびを噛み殺しながら、ひっそりとためいきをついた。
今日はまじめそうなお兄さんと留守番なのだけれど、このお兄さんがほんっとうにまじめで……。わたしを炎の勇者一行から預かるんだから、万が一のことがないようにと言って、リビングからすら出してもらえないのだ。
……わたしのこと、子犬かなにかと勘違いしてない?
そしてお兄さん自体はわたしが座るソファーの向かい側で、優雅に読書している……。
『……まが、もたない……』
ついぽつんとつぶやいてしまって慌てたけれど、ちょうどキリが飛び込んできたので、わたしの声はかき消された。
「見つけたぞ!!」
なにを?
とっさにそう思ったわたしは、みんながなんでいないのか思い出すべきである。
そう、つまりは。
「月華草か?」
「もちろん!」
……ということのようなので。
読んでくださりありがとうございます。
前回に続き、またもや間が空いてしまいました!申し訳ないです!




