3、拾われ竜-2
思ったよりもブックマーク頂けてます……!ヤッタ!
夢中になってミルクを飲んでいたわたしだけれど、ふと背後の声が増えている事に気付いた。
「ふわぁ……!可愛いなあ!」
「確かに見た目は古代竜だが……」
わたしの背中が焦げ付くような気さえする、熱い視線達の圧に負け、そっとミルクから口を離した。
「あ、飲むのやめちゃった……」
【動物園のパンダの気分……】
檻の中の動物を、人間が外からじろじろと眺めるイメージが流れ込んできて、納得した。確かに見世物になった気分だ。
わたしは口元についたミルクを舐め取って、恐る恐る振り向く。
「きゅっ」
観客が4人に増えていて、わたしは思わず鳴き声を漏らしてしまった。
「きゅ、だって。可愛い〜!」
「古代竜の鳴き声なぞ初めて聴いたわい。愛いものじゃなあ」
万里乃さんとギャリックさんの他に、女の子と男の人が増えていた。
微笑む万里乃さんとわたしを見て頬を緩めるギャリックさん、女の子はわたしの一挙一動に喜び、男の人からは珍獣でも見ているような目を向けられている。
「あっ、挨拶しなきゃね!あたしはイドラ、猫人族だけど特技は魔術!12才だよ。よろしくね、おちびさん!」
イドラちゃんは、焦げ茶色の髪と耳をしていた。頭の上の方に立派な獣の耳がぴょこぴょこぴるぴるしている。
前髪を目の上でぱつんと切り揃え、前髪以外の髪は肩の長さでくるんと内巻きになっていた。万里乃さんとはまた違った方面での美人さんで、どちらかというと可愛い顔をしている。瞳がとても綺麗な青色だった。
「コレは本当に古代竜か……?こんなにとぼけた面の古代竜など見た事が無い」
「エリアったら、挨拶も出来ないのぉ?」
イドラちゃんに煽られ、エリアと呼ばれた男の人は物凄く恐ろしい形相になった。
【ひええ……美形の怒り顔、怖……】
大いに同意だ。最初、女の人かと思った程に麗しい顔は、多分無表情でも怖いのに、今の顔なんて怖すぎて……わたしは無意識に後ろ足の間に挟まっていた尻尾を、そっと元の位置に戻した。
「……エリアだ。森人族だ」
エリアさんは怖い人。覚えた。
滑らかそうな、背中を半分覆う長さの髪はうっとりするような金色で、見ていると何だかうずうずする。切れ長の目、瞳は若葉色で……多分、白皙の美貌とはこういう顔の事を言うのだろうと思う。耳がかなり尖っているのは、きっと森人族という種族の特徴なのだろう。
「ねえねえおちびさん、撫でてもいいかな?」
イドラちゃんが嬉しそうに尋ねて来たので、わたしは頭を差し出した。顔を合わせて間もないけれど、優しそうなイドラちゃんならそう酷い事はしないだろうと思って。
イドラちゃんは恐る恐ると言った手つきで、壊れ物を触るようにわたしの頭を撫でた。
「ほああ……!ふわっふわ……!」
イドラちゃんの撫で方が予想以上に優しかったので、わたしはイドラちゃんに体を擦り付けた。
イドラちゃんは変な姿勢のまま固まり、呻く。
「うああ……脛に極上の幸せが当たってるぅ……」
「貴様の尻尾や耳と変わらんだろうに」
「ははっ。エリアはほんとに……ねえ?」
エリアさんが、ぎっ!とイドラちゃんを睨むが、当のイドラちゃんはどこ吹く風だ。
「おい、明らかに私を馬鹿にしているだろう」
「馬鹿にっていうか、哀れんでる。あたしの毛並みとこのふわふわ様の違いも分からないとか」
「じゃれあいもその辺にするんじゃ。
それでエリア。お前さんから見てこの古代竜はどうじゃった?記憶が無いようなんじゃがの」
エリアさんは面倒臭そうに溜息を吐くと、私を見下ろしながら話し始めた。
「記憶が無いのは見れば分かる。普通の古代竜はこんなに警戒心皆無ではないからな。簡単にだが、視てみた感じだと……古代竜への転生時に何かあったのだろう。魂が破損しているように見受けられる」
万里乃さんが息を呑む。
イドラちゃんはそんな万里乃さんを見て、戸惑ったような顔をした。
「万里乃?魂が破損してると、そんなにまずいの?」
「そうね……滅多にある事ではないわ。例を挙げれば、体の魔力が必要以上に漏れ出して、長く生きられなかったりするわね」
「え……」
イドラちゃんが絶句し、わたしを撫でる手を止めた。
「……この古代竜に関して言えば、記憶が無いのがその障害に値するだろう。命には関わらない」
「良かったぁ……いや良くはないけど!」
「何にせよ、コレが古代竜であるのなら、拾った者の責任として古代竜の郷へ連れて行くのが一番だが」
「じゃあそうしよう?アルも人助けなら駄目って言わないもん」
イドラちゃんは、わたしに触れる事に慣れてきたのか、わたしを大事そうに抱き上げた。
「そうは言うがな……古代竜の郷は場所の詳細が不明だし、あの広大な魔の森のどちらかも分かっていないぞ」
「だからって放り出すの?」
「そうは言っていない。……まあリーダーであるアルフォンスに決めさせるか」
……エリアさんは怖い人だと思う、でも、所々で不器用にイドラちゃんを気遣っていた。きっと優しい人でもあるのだろう。
そんな事を考えながらみんなを眺めていたら、段々瞼が重たくなってきた。
「んー?眠いの?いいよ、寝てて」
イドラちゃんの優しい声を聴くと同時に、わたしの意識はすとんと落ちた。