74・竹と柳先輩
「柳先輩。これ出来たんですけど」
教育係の柳先輩に、作っといてと言われた資料を渡す。企画部にいるとよく作る資料らしいので、まずそこからだそうだ。
慣れてきたらみんなの分を作らないといけなくなるらしいので、これが遅いと自分の仕事ができない。柳先輩は一通りのコツを教えてくれたので、駆使しつつ自分のやりやすいやり方を模索する。
しかし同期も柳で教育係も柳なのか・・・
ややこしいからこっちは柳先輩と呼んでいる。
「おっ! 今回早いな。もうちょっと待ってくれ」
「何してるんですか?」
柳先輩は一度こっちを見た後、すぐパソコン画面に視線を戻し、何やら書き込んでいる。そこに書かれている内容をチラ見すると、完全に仕事とは関係のない内容だった。
というかMWRの内容じゃないか!
「何してるんですか・・・」
「・・・情報交換だ」
呆れ顔で言うと、シッと人差し指を立てて柳先輩は小さい声で答える。本来ならダメなのだがどんな情報を交換しているのか気になるので、僕も小さい声で聞き返す。
「どんな情報ですか?」
「おっ? 知りたいと言う事は・・・」
「僕もプレイしてます」
柳先輩は周りに見えないように親指を立てて「いいね」をする。そしてサッと周囲を確認して説明してくれた。
「これは社内掲示板のMWR用スレだ。ここでゲーム内情報や進化方法、攻略法を共有している。場合によったらここでパーティを探してもいい」
「へぇ・・・」
柳先輩が見せてくれたのは社内SNSの趣味グループの一つだった。情報交換用と書かれたスレッドに各自が気づいた情報が載せられている。レスがどんどん増えていくので、皆仕事中にも関わらず書き込みしているらしい。
何か面白い情報でも出たのかな?
「ああ、実は冒険者の幽霊が出るって話があってさ」
「幽霊?」
そんな話聞いたことないし、見たこともない。
「夜の時間帯にフィールドを彷徨っているらしい。普通冒険者は夜の時間帯は野営するだろう? でもそいつらは昼間の時間帯同様にフィールドを移動している」
「それアップデートか何かで実装されたんですか?」
それともバグかな?
最近アップデートなんて来てないし。
「俺もバグだと思うんだけどさ・・・。倒せるし、経験値も入るらしいんだよな」
「じゃあ普通の冒険者と一緒ですね」
「と思うだろ? けどこいつら物理攻撃効かないらしい。倒すには魔法必須だそうだ」
「何ですかそれ・・・」
流石に酷い。魔法使えないプレイヤーは逃げるしかないじゃないか。
発見者パーティにはたまたま魔法使いが居たから倒せたらしいが、居なかったら全滅だったようだ。
「柳先輩は会ったことあります?」
「ない。だからここで情報集めてるわけ。聞いてみると会った奴も何人かいるらしいぞ」
「全員魔法使えないし死んだらしいけど」と柳先輩は笑う。僕は苦笑いで返しておいた。
あと柳先輩、声がどんどん大きくなってますよ。
「お前はどこまで進んでる?」
「先日丘エリアに入ったばかりですね」
「なら荒野エリアには気をつけろよ。そのエリアも出るらしいし」
柳先輩によるとその幽霊は出るエリアは決まっているらしい。第二オアシス周辺では荒野エリアで出現が確認されている。
「あ、はい」
とはいえウチはなまけものが居るからな。
会ったとしても大丈夫だろう。
それにすぐ荒野エリアに行くこともないだろうし、頭の片隅に置いておけばいいかな。
次回更新は明後日になります。