611.報告
「ほほう。それでどうなったのかなぁ?」
「聞き方がキモい」
ニヤつく榊。イラっとするが、本調子じゃないので許す。
今日はあの勝負から2日後。結局昨日は治らず1日休む羽目になった。「最近体調よく崩すな」と上司から小言混じりに言われたが、柳父に振り回されてると言ったら頭を抱えて納得してくれた。どうやらあの人の面倒さは上司クラスの年齢の人たちでは周知の事らしい。言った瞬間、小言が心配の声に変わったくらいだ。柳先輩がとばっちりで小言を受けるセット付き。
その上、昼までゆっくりしておけと柳先輩に仕事を取られ、ぼーっとしたまま昼を迎えてしまった。
「そんなお前の部署のホワイトニングなんて聞きたくねぇんだよ。あいつとどうなったかを詳しく話せ、根掘り葉掘り聞きたくてうずうずしているんだこっちは!」
「うずうずしてるんだ〜!」
いつに間にか加わった柊さん。くそっ、面倒くさい人が増えた。そして出来ればいて今ほしくない柳さんも居る。
「何の話?」
「来たな柳。さて、全部話して貰おうか」
「貰おうか!」
「だから何の話?」
食い気味にくる榊たちに若干引き気味の柳さん。
「優美さんと付き合うことになったよ。それだけ」
「その話!?」
「あほか。ぬな事聞かんでも雰囲気で分かるわ! そこまでの過程を教えろ馬鹿野郎」
「そうだぞ馬鹿野郎」
「やだよ。何で話さなきゃならないんだよ」
話すようなこともなかったし、ぶっちゃけよく分からないうちに付き合うことになっていたので僕も過程がよく分かっていない。
話す気はないが一応思い出してみる。
昨日休んで・・・、18時前位に柳さんが来て・・・、とりあえず色々謝ったり気持ち話したりして・・・。そして最後にはいつのまにか付き合うことになっていた。
・・・・・。やっぱりよく分からない。熱もあったし記憶がもしかしたら飛んだのかもしれない。
まぁ恐らく柳さんの話術で誘導されてそうなったのだろう。うん。
「何で教えねぇんだよ!?」
「恥ずかしいからだよ!」
ということにしておこう。
ちなみにもし昨日のことあんまりよく覚えてないと言うと、柳さんに怒られそうでちょっと怖いからでもある。今のところ柳さんも話す気はないようなのでバレずにすみそうだ。
榊は僕らがどう言っても話す気無いと諦め、舌打ちして話題を変える。
「じゃああの後柳のおやっさんからなんか連絡あったのか? ほら、転勤の話とか無くなったんだろ?」
「ああそれ? 2ヶ月後に転勤するよ」
「「!?」」
「マジで!?」
「そうなの!?」
「うん。そもそも勝負より前に行くって言ってあるし」
転勤の話自体は、勝負する日の2日前に部長経由で伝えられた。その時には将来を考え行くと決めていたので、二つ返事で返していた。
だから実のところ、あの勝負をやる意味は完全に無くなっていた。
「おい待て、それ柳には言ってたのか!?」
「き・・・昨日・・・。昨日言った」
「遅ぇ! 終わった後じゃんか!」
だって言うタイミング無かったし!
ちなみに柳さんには昨日すごい色々言われた。なんか色々文句言われ、条件つけられ・・・そう言えば納得してくれた時には付き合うことになってた気がする。
「でも柳さんには納得してもらったし」
「納得してないけど? 仕方ないとは思ってるけどね」
柳さんがジロリとこちらをみる。目が言っている、「これから2ヶ月はみっちり付き合ってもらうから」と。
まぁそれくらいならと覚悟したが、想像以上の2ヶ月で大変だった。転勤関係を柳父がフォローしてくれなかったら多分準備間に合わなかっただろう。
そして、2ヶ月後・・・。僕は初めての海外へと転勤した。
次回更新は3日後の予定です。