583.特訓を初めてみた①
特訓が始まって1時間。もう帰りたい。
ユウさんの特訓は、理論、効率など関係ない身体で覚えろのエンドレス組手。脳筋特訓だった。当然最初から全力。それはつまり、僕がボコられ続ける地獄の時間だった。もういっそ峰打ちじゃなく真っ二つにしてくれぇ・・・。
「ぶへぇ!?」
「判断が遅いわ! もっと私の動きから攻撃先を予測して!」
「分かんないよ! どう予測したらいいのさ!」
「予備動作を見るのよ! 予備動作の足の向きや、腕の位置、私の目線を見るの! そしてその態勢からどのような攻撃がくるかを見て動くのよ!」
「無理!!」
まず予備動作を見るには意識する場所が多すぎる。そしてその予備動作、一瞬すぎてほぼないに等しい。仮に見えたとしても判断するまえに攻撃がくる。視野、動体視力、瞬間の判断力全てが足りてない。ついでに言うと、動きにもついていけない。
「そこを何とかしないと勝負にならないわよ!」
「そんなこと言ったって一朝一夕で身につかないよ」
「そうよ! だから数こなして慣れるのよ」
「だからって永遠組手はキツいよ・・・」
ボコボコにされてもゲームなので痛みはない。体の疲れもない。だが精神的疲労は半端ない。ついでに途中から合流した視界端でニヤついているなまけが腹立つ。
「次始めるわよ!」
「た、タンマ! ちょっとなまけとチェンジ! 一旦第三者目線で見させてほしい!」
「却下よ。三人称の視点で見ても意味ないから」
そんなことないと思うけど!?
なまけものもそう思ったのか、ゆっくりと立ち上がった。
「まぁ待てユウよ。他人の動きを見て閃くこともある。試してみるのはありだぞ」
いや、違う。こいつ、単純に自分の動きを僕に見せつけたいだけだ。「俺は避けれるぜ」と言いたいだけだ。ニヤリと笑う顔が全てを説明してくれる。
まぁどう言う理由でもいい。なまけものに代わっている間ちょっとでも休憩しないと。
「なまけは他に役割があるから、五体満足でいて欲しいんだけど・・・。仕方ないわね」
「・・・おい待て、どう言う意味だ」
「こう言う意味」
ユウさんが大刀を持ち直して、刃をなまけものへと向ける。なまけものから一気に汗が噴き出た。
「峰でお願いします」
「嫌よ。時間かかるでしょ。あと個人的に斬りたい気分なの。じゃあ始めるわよ」
「待っーー」
数秒も持たないうちになまけものは切り刻まれて捨てられた。避ける動作すらできず、何がしたかったのかすら分からなかった。倒れたなまけものはココアに回収され、何処かへ連れて行かれた。恐らく遊ぶためだろう。
「おいやめろ! 俺で遊ぶんじゃねぇ!!」
やっぱり。あの調子だと当分帰って来ないな・・・。仕方ない、呼んでくるか・・・
「どこ行くのかしら?」
「いや、呼びに行った方がいいかなぁ・・・なんて」
「いらないでしょ? 続き」
「はい・・・」
すごすごとユウさんの前へと立つ。
「時間の無駄だったわ」
「ほんとだよ・・・」
本当に無駄な時間だった。休憩も全く取れなかった。せめて休憩時間くらいは頑張って欲しかった。
はぁ・・・、僕は休憩を諦め、小さくため息を吐いた。
次回更新は3日後の予定です。