579. 家族会議②
『なるほどな。てことは今日の会議は優美主催か? 母さんだと思ったが違ったか。まぁそうだろうと思ってたがな。ふぅ・・・』
お父さんは安堵のため息を吐いてからこちらを見た。
『あら、その安堵は何かしら?』
『何でもない、何でもないぞ』
「そうでもいいわ。で、どういうことなの!?」
それを見たお母さんから不穏なオーラが出はじめるが無視して話を進める。このままでは「出勤だ」と逃げられそうだ。
『簡単なことさ。竹君は出来る人間だ。だから早めに海外で勉強させる。これは竹君にとっても、優美にとっても、会社にとっても悪い話ではない』
「悪い話よ! こっちの予定が狂うわ! それにーー」
『まぁ聞け。もっと長期的に考えろ。今海外で視野を広めるのは竹君の出世上必要だ! 出世して給料が増えれば・・・、仮にお前が竹君と結婚して専業主婦でも生活が安定するだろう。会社にとっても無能を昇格しなくて済む』
「・・・・・」
確かに結婚を考えると竹君の収入は多い方がいい。海外勤務経験があると出世しやすいのも分かる。会社云々はどうでもいい。
言いたいことは分かるけど、だからと言って海外転勤なんて・・・
『納得してない顔だな。ああ言わなくていいぞ、母さんと同じことをしてる時点で察している』
「だったらーー」
『だったら何だ? 言っておくが、今回俺が提案したのはお前に嫌がらせする為ではないぞ。竹君が成長の見込みがある、投資する価値があると知ったからそうしているだけだ。能力のある者、頑張れる者に出世コースを用意するのは普通だろう? まぁ・・・』
『本当は誠をいかせるつもりだったんだがな・・・』とちょっと残念そうなお父さん。どうやら転勤枠は本来兄さん用だったらしいが、色々考慮して断念したのだろう。
「だったらこっちも同じように考慮して欲しいんだけど?」
『じゃあ聞くが、お前はあいつの何だ? 嫁か? 恋人か? 違うよな? ただの仲のいい同僚だよな。であれば考慮する余地など一切ない』
「そ、そこはお父さんとして・・・」
『俺は出来る奴に道を提示する。娘のお願いだろうと変えるつもりはない。そんな理由で他人の人生を変えていいわけねぇからな。優美、お前のわがままであいつの人生変える責任取れるのか?』
「うぐっ、でも兄さんの時にはっ!」
『考慮した。したが誠に話はした。この結果は誠が直接辞退したからだ。当然、勝ち負けに関係なく、竹君が嫌だと言うのならこの話は無しにするつもりだ』
「じゃあ竹君が断れば行かない事になるってことでいいのね?」
『おう。海外転勤は環境が変わりすぎる。本人の意思を尊重するさ。だがさっきも言ったが、お前・・・、ただの同僚の関係でそんなわがまま言うのなら、あいつの会社人生に責任取れよ?』
・・・・・。
「取れる」なんて言えない。確かに私と竹君はただの同僚と言われればそうだとしか言えない。互いに気持ちを伝えたわけでもないし、付き合ってるわけでもない。他人だ。
海外転勤は出世チャンス。竹君にとっては大きなチャンスだ。お父さんの言うとおり、他人の私の意見で決めていいもんじゃない。
『あなた、少し強く言い過ぎでは?』
『やらかす前に教えるのが親の勤めだ。母さんは行動が早すぎたからこんな事ならなかったけどな』
『ふふ、逃げられたら困るものは、すぐに捕まえるのが鉄則ですよ』
『知らないうちに外堀埋められて、逃げられなくなってたのは本気で恐怖したぞ』
『でも嫌じゃなかったでしょ?』
『ああ、だから恐ろしいんだよ』
どうやら私はモタモタしてたようだ。あと子供の前でイチャイチャしないで! 見たくない!
『む、・・・まぁ優美よ、責任取れは言いすぎたが、選択次第で相手の人生が変わることを理解しておけ。最終的に決めるのは竹君だが無理強いは絶対するんじゃないぞ!』
『でも・・・、じゃあどう言えばいいの?』
『行きたくないと思わせればいいのよ。例えば向こうが優美と離れたくないと思わせるとかね。簡単よ、あなたの気持ちを伝えればいいんだから』
・・・・・え?
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