570.参観されてみた③
「悪いな。取れるスキルは移動系、補助系に特化しているんだ。戦闘は基本、攻撃スキル要らないからな」
「何で泳ぐスキル持ってるんですか!?」と聞くと、そんな回答が返ってきた。どうやら獅子王さんは、社で手に入るスキルを『飛翔脚』のような移動系やバフ系、『生成』などの補助系メインで取っているらしい。
「それで戦闘勝てるんですか?」
「空手使えば4対1でも余裕だ。『縮地』って高速移動スキルで間合いを詰めれりゃもう勝ち確だと言っていい」
「あ、『縮地』もあるんですか、そうですか」
さっきの追いかけっこで使ってこなかったってことは、使わなくても捕まえられたということだろう。現に逃げられないと悟った僕は捕まっているようなものだし。
「しかし、あいつらはどこ行ったんだ? ユウの様子が見たいのに、見れないじゃないか」
「今近くのオアシスからこっちを見てますよ。呼びますか?」
恐らく僕を心配で見にきてくれたとのだろう。多分そう。そうであってくれ。
「言っても来ないだろう? しかしそうか・・・。やはりそうなんだな」
「? どういうことです?」
「いや、何でもない。確信を得ただけだ。やはりユウも持ってたか・・・。まこ・・・カイザーの言った通りだったな」
「???」
1人納得する獅子王さん。何の事か分からないが、僕を見ているところから察するに僕がらみであることは間違いないだろう。
訳がわからないまま獅子王さんを見ていると、何かを考えた後聞いてきた。
「聞くが、ユウが変になる事はあるか?」
「・・・ゲーム中、バーサーカーになる事はありますね」
「それはどうでもいい。私生活だ、私生活! 普段はどうなんだ? 例えば・・・2人になった途端性格が変わるとか、何か違う事するとかなんかないか?」
「え? ・・・いや、特には・・・、ないです、ねえ・・・」
思い出してみるも、どの場面でもユウさんはいつも通りだ。強いていうなら2人の時は言い方が少し優しいくらいか? でもあれはそれ以外の時、なまけものがユウさんにちょっかい出すからだよな。
「本当か!? 本当に何も無いのか!?」
「そう言われても・・・、強いていうなら、まぁちょっと一緒にいる時間が増えたくらいですかね?」
「というと?」
「料理教えてもらう時、ユウさんが帰る時間が最初に比べると遅いとか、買い物の時に寄り道が多くなったとか・・・」
「・・・成程。よく分かった。・・・・・、手遅れ? だがまだあれは出てねぇようだしまだか・・・」
なんかぼそっと「手遅れ」とか聞こえたんだけど?
どんどん訳が分からなくなっていると獅子王さんは「手を打つなら今か」となんかを判断した後、ガッと僕の首筋を掴んだ。
「よし! という訳でポンタ君。俺と勝負しろ!」
「どういう訳で!?」
「負けたら君は海外駐在だ!」
「何で!?」
「勝負はそうだなぁ・・・。俺の有休が取れる2週間後な! 詳細はまた連絡する」
「いやちょっと! やると言ってないんですけど!?」
「なら俺のいるところに来てもらうだけだな。・・・おっと、もう着陸の時間か」
んな理不尽な・・・。というか着陸って、
「機内でゲームしてたんですか!?」
「時間ないからな。ふっふっふ、ファーストクラスはゲームも快適だぞ?」
ゲームするためにファースト乗るの!? 無駄遣いすぎないか!?
「ははは、では2週間後、待ってるぞ!」
「ちょおぉ!?」
驚いている内に獅子王さんはログアウトしていった。
「あとユウが豹変したらすぐに連絡しろ。絶対だぞ」
そう言い残して。
次回更新は3日後の予定です。