566.応接室①
「失礼します・・・、来ました」
「おう。待ってたぞ~。じゃあお前は仕事に戻れ、な?」
「先輩は海外へ帰れ」
「言われんでも明日帰るわ」
死地に向かう気持ちで応接室に入ると、柳父は僕の上司の部長と談笑していた。こちらに気づくなり、談笑していた部長をしっしっと手で払うも、逆にしっしっと手で払われている。柳父の方が先輩のようだが仲が良いらしい。
「うん? 竹君じゃないか。この先輩に呼び出されたのかい?」
「はい。出来ればこのまま出て行きたいですが」
「許す。一緒に戻ろうか」
「部長・・・」
何かを察した部長は、僕も背中をポンポンと叩いて戻るよう促す。神か? 髪ないけど。
「待て待てっ! 竹君には話があるんだ。4時間ほど借りるぞ!」
「仕事終わるじゃないですか・・・。僕らは先輩ほど暇じゃないんですけど?」
「お前さっき「今日は会議ないから午後から評価パーティだぁ!」とか言ってたじゃないか。暇なんだろ?」
「部下の評価も仕事でしょうよ! 先輩の評価最低にしますよ?」
「やってみろ。お前の給料を初任給にしてやろう」
「ほう? 先輩にそんな権限があるのですか?」
「ふっ・・・、無いと思うだろう?」
「無いんでしょ?」
「無い」
無いんかい!
なんか榊と話しているようなくだらない話が続く。2人とも楽しそうだしこれ帰ってもバレないんじゃ・・・。
「竹君? 話は始まってないぞ?」
「・・・始める気、あります?」
「お前の上司次第だ。どうだ? 詫び飯奢ってくれるなら許そう」
「クソ先輩め。そっちの方が給料高いくせに!」
「あ、部長。あの人奥さんには激弱らしいので、言いつけると瞬殺出来るらしいですよ」
「!?」
「本当か!? よし、今すぐ有る事無い事暴露してくる!」
部長は小太りな体からは想像もできない速さで部屋を出ていった。しまった、一緒に出るつもりだったのに出遅れた。
取り残された部屋には、どこか殺気立ったような柳父と2人きりになる。
「誰から聞いた?」
「柳さ・・・、優美さんからです。困ったらそう言えって。・・・弱いんですか?」
「その言い方は違う。家内が強すぎるのだ。あいつのは昔から勝て・・・って、そんなことはどうでもいい、座れ」
「・・・・・、はい」
そのまま牽制しつつ逃げようかと思ったがダメだった。柳父のテーブルを挟んだ対面に座らされる。
すごい威圧感が部屋中に充満する中、柳父のぴちぴちスーツは特注なのだろうか? とか、ストレッチ性ぱねぇとか考え気を紛らわせる。
「まぁそう緊張するな。4つ、いや5つか? 忘れたが少し話をしたいだけだ」
多くない? 1つまでにしてください。残りは今度帰ってきた時で。
「だがまずは・・・、そうだなぁ・・・」
まずはじゃないのよ。メイン話の前にまだ違う話入れないでよ。しかし柳父は何やら言いにくそうにしている。どこかバツが悪そうな顔で頭を掻きながらいいそうですなかなか言わない。
「あの・・・」
話しかけようとしたら手を前にして静止された。柳父は一旦深呼吸し、
「・・・すまなかった!! 昨日は悪いことをした!! この通りだ!!」
大きく頭を下げられた。
次回更新は3日後の予定です。