543.白炎ヨセフと戦ってみた⑥
『・・・ほう?』
目の前でココアが貫かれた。こっちはユウさんを助けていたため間に合わなかった。
しかしココアを貫いたヨセフが「面白い!」と言いたげな顔をする。直後ココアは『巨大化』を解きつつ、ヨセフの腕を蹴ってなまけものの近くへと着地した。その体はドーナツのように真ん中に穴が空いている。
「ふぅ・・・避けたか」
「そうか? 貫通しただけに見えるが?」
「避けたよっ!」
なまけものがココアを茶化しているが、さっきだいぶ焦った感じだったから、茶化すくらい安堵しているようだ。しかし安堵していいのは束の間だけだ。まだヨセフは死んでいない。
「むぅ・・・、アレだけ攻撃チャンスあったのにちょびっとしか減ってないよ~」
「お前やユウが居たからな。下手に攻撃できん」
「同じく」
攻撃したら巻き添えで2人が死んでいた可能性が高い。ただしココアが行ったアレは決して無駄ではない。
「だな。あいつ、思ったよりも視野が狭いらしい」
「正確には攻撃中には、ね。剣戟している最中は足元まで見てられないんじゃないかな」
ユウさん相手にも余裕な雰囲気を出していたが、実際は足元を気にする余裕もないくらい集中しているようだ。そこにチャンスがある。
実際今も打ち合いを始めたユウさんに手いっぱいでこちらを攻撃してくる様子はない。
「チャンス?」
「要はユウとヨセフがやり合っているときは足元への視野が狭いから、そこ突けば転がし放題ってわけだ」
「おお~」
「ポンタの攻撃への反応を見た限り遠距離攻撃では後ろから撃っても反応するから、本当に地面すれすれの攻撃で無いとダメな気がする。つまり・・・」
全員がココアを見た。ココアは見られているのに気付くと意味もなくドヤる。
「ココアしかできないってことだ。頼むぞ俺らの切り札」
「任せてよっ!!」
完全に調子に乗ったココア。ニヤリと笑うなまけもの。気付けココア、乗せられているぞ。
だがココアがその役を担ってくれるのであれば、こちらも攻撃に集中できるので何も言わない。
「問題は・・・ユウだな。あいつが一番大変な役割になる上、あいつが負けたら全部終わる」
「それはそうだけど・・・、本人超楽しそうだから大丈夫じゃない?」
顔は真剣そのものだが、雰囲気はすごく楽しんでいる感じがする。あくまで感じるだけで違うかもしれないが・・・。
「そうか? 苦戦しているように見えるが・・・。まぁいいや、んじゃ作戦はじめっぞ。ポンタは下敷きにされる前に上手いことユウを助けろよ」
「ユウさんにタイミングよく避けてとは言わないんだ・・・」
「そうなるとユウはココアを意識しないといけなくなるだろ? その場合やられる可能性が出るし、下手すりゃヨセフがココアに気付く。そうなれば避けられる」
なまけもの的にはヨセフの意識をギリギリまでユウさんに集中させたいようだ。当然か、相手はSランクだからね。
僕はユウさんの後ろに待機し、なまけものは攻撃しやすい位置に移動。ココアはヨセフの後ろに這い寄り、また触手をヨセフの足元へと伸ばす。
剣がぶつかる音がする中、何故か開始の合図をさせられることとなった僕はヨセフの動きを見る。ヨセフの攻撃パターンをある程度把握し、大きく足を踏み込むタイミング・・・、ユウさんが押され始めるタイミングを待つ。
『ここだっ!』
「っ!?」
ギィン!! と音を立ててユウさんの剣が天へと弾かれ、ユウさんが少しバランスを崩す。直後僕は叫んだ。
「そこだぁ!!」
さっきまでの攻撃では、ユウさんのバランスがズレるとヨセフは必ず踏み込んだ一撃を行っていた。今回もそうだろうと予測しココアに合図を送る。ココアはすぐに反応してヨセフの足を引っかけるために動いた。
しかし・・・早すぎた。
引っ掻けようとした触手を踏み込んだヨセフが踏んづけたのだ。
「いたああああああっ!!」
『!? 何っ!?』
ココアは絶叫とともに触手を引き戻す。結果触手の上に足を乗せていたヨセフは、まるでテーブルクロス引きに失敗して転がるワイングラスのように大きく転倒した。
次回更新は3日後の予定です。