460.【海難】と戦ってみた①
「んじゃ、俺は『アイスウォール』を足場にあの岸へと移動するから。誘い出しとヘイト頼むな」
「う、うん・・・」
「ま、任せといて」
「? どうかしたのか?」
「「いや、何でもない!」」
「?」
僕らの言動に不信感を持ちつつも、なまけものはココアの『アイスウォール』を渡って岸へと移動する。それを横目に僕らは【海難】へと近付く。僕らの役割はとりあえずなまけものの射程まで【海難】を誘導し、それ以降はなまけものに攻撃がいかないように注意を逸らすことだ。上手くいくかは全く分からないし、そもそも【海難】の全方位展開の水の障壁の突破口すら分からない。
大体苦労して手にしたあの供物の効果も未知数だ。確実に分かるのは海難の常時『水化』がないってところか。それでも『水化』自体は出来るだろうから油断は出来ない。
そう言う状態なので1回で勝とうとは考えてない。様子見つついけそうなら攻撃し、基本は相手の情報を引き出すように戦う方針だ。
なまけもの :準備出来た
ポンタ :おk
なまけものが位置についたようだ。見ると手を振って合図している。しかし僕らには手よりもなまけものの頭に目が入ってしまう。
「くくく・・・。あ、駄目だ。アレは駄目」
「あはは、ちょっと・・・わざ、わざとじゃないってば・・・」
「でもほら、光が当たってちょっと光ってる」
「もうっ! やめてよっ!! 抑えるの必死なんだからっ!!」
なまけものの頭のテッペンが綺麗に禿げていた。そこに太陽光が当たり、若干反射して光る。遠くから見ると頭が光っているようにしか見えない。
因みにこれはユウさんの加減ミスが原因だ。先の【海難】の放った『タイダルウェイブ』にびっくりしたユウさんが天辺の毛を燃やしたのだ。結果天辺の毛は綺麗に燃えて消え、見事な禿頭が完成した。
なまけもの :どうした? 何か問題でもあるのか?
このまま笑いを堪えているとなまけものにばれそうなので一旦忘れよう。なまけものには「ちょっとふらついただけ」と適当に返し、ユウさん共々意識を【海難】へと向ける。
「どう攻めるの?」
「まずは一気に至近距離まで攻めてみる。本当に『水化』しないか確認しておかないとね」
「分かったわ」
そういうとユウさんがしがみついてきた。それを確認し、一旦【海難】の真上に移動。まだ気付かれていない、そう判断して急降下しつつ一気に距離を詰めた。
流石のSランクといえど、このスピードでの不意打ちには気付くまい。
攻撃方法は単純な体当たり。スキルを使うとそのタイミングでバレるし、この方法だと急降下の速度を十分に生かせる。
「貰った!」
『!?』
しかし、至近距離まで近付いた矢先に、何かに気付いた【海難】がこっちを見た。そして反射的に体を捩じって躱す。
「躱された!?」
「大丈夫よ! ちゃんと当てたわ」
ユウさんが左手に持っていた剣が躱した【海難】に当てたらしい。しがみついていた筈だがいつの間に剣を抜いたのだろうか? いや、そんなことは後でいいか。
『ぐぅ・・・、何故だ? 何故効く・・・』
ユウさんの言葉通り、僕を躱した筈の【海難】の左腕から血が出ていた。ダメージを負っているところから『水化』はしてない。
「効いてる!」
「ちゃんと効果あるみたいね! 攻めるわよ、ポンタ」
「え? あ、はい」
一旦引こうと思ってたんだけど・・・。
そんな僕らの前で、【海難】が吠えた。
次回更新は3日後の予定です