371.波に襲われてみた
目の前に現れたそれはやっぱり波だった。
しかし船すら超える高さ、光すら通さない厚みから最早海の壁と言っても過言ではない。それが僕らの目の前まで迫っていた。
「離脱!」
「あっ、テメー! ずるいぞ!」
押しつぶされる前に僕は飛翔する。異変に気付き慌てて寄って来たユウさんはすぐにココアとセットで乗ってきた。
つまり残念だがなまけものを乗せる余裕はない。
「許せなまけ」
「許すか!」
「船壊れたら嫌だから消すね~」
「やめろ馬鹿! 『シャイン』x『ウィンド』」
問答無用で船を消すココア。しかしなまけものは直前に強化した脚力で僕の尻尾に飛びついて来た。千切れそうな痛みが僕を襲う。
そして同時に眼下では僕らが居た場所を波が飲みこんだ。
「間一髪だったな・・・」
「ち、千切れる・・・。」
「ちょっと我慢しろ!」
「そうよポンタ。今斬るから少し我慢して」
「いや引き揚げろよ!!」
剣を引き抜くユウさんは渋々なまけものを引き上げる。尻尾の痛みは無くなったが、代わりに背中に乗る重みがズシリと増えた。
必死に耐えるが、相変わらずきついな。誰か体重増えたんじゃないか?
「何なのアレ?」
「さぁな。船があるところを直接狙ってきてるっぽいし自然では無いな」
船が消えたからか波は出てこない。他の船も周囲に居ない為、海は何事もないかのように静かな状態に戻っている。
「も、もういいかな? 下りて良い?」
「この辺は駄目だな、船だしたら襲われる。あっちまで行ってくれ」
「簡単に言うけど動くの大変なんだが?」
「バフ掛けたらいけるか? 速度強化だが」
「無いよりマシかも。宜しく」
なまけものが『シャイン』x『ウィンド』で速度強化してくれる。すると途端に体が軽くなった。
「どうだ?」
「いけそう。だいぶ楽になった」
「そうか。ならこれからはこのスタイルにすれば3人乗りでも可だな」
「不可に決まってんだろ」
「私もなまけと相乗りなんて嫌なんだけど・・・」
「じゃあ降り・・・待て待てっ、落とそうとすんじゃねぇ!」
「暴れるなら全員落とすけどいいかな?」
途端に大人しくなる2人。
僕は再度暴れ出す前に陸へ向けて移動。滑空する形で目指した。しかし、
ザバァ!!
「「「「!?」」」」
一定の高さまで下がった時、それはまた出てきた。
「あれ? これ船乗ってたら出るやつじゃないの?」
「違ったようだな。ははは」
「躱してポンタ!」
「いや無理」
波の範囲が広すぎる。移動では逃げれない。
『縮地』も空中では使えないし・・。
直後僕らを波が飲みこんだ。
轟音とともに僕らは海へと落とされる。
そして、
「死ぬかと思った・・・」
「・・・い、生きてる?」
波に飲まれた位置よりもさらに高いところで僕は安堵する。咄嗟の『蜃気楼』が発動してくれたおかげだ。結果僕と、僕を掴んでいたユウさんはHPこそギリギリだが助かった。
なまけものとココアは・・・、死んだか。
インフォメーションに2人が死んだと書かれているのを見て諦める。今頃復活したオアシスで騒いでいることだろうし、落ち着いたタイミングで転移しよう。
「どうして?」
「『蜃気楼』使ったから。ダメもとだったけど死ななくてよかった」
「でも『蜃気楼』って・・・」
「うん、攻撃を無効化するスキル。それが発動したってことは・・・」
ただのギミックではない。誰かの攻撃というわけだ。
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