358.ダンジョンに入ってみた
「・・・何だったんだ? さっきまでの時間はよぉ」
「さぁ? 疲労イベントじゃないか?」
おかしなテンションになったカイザーさんは、リコさんから連絡が入るやいないや早々にログアウトしていった。
結果、あの人ただ僕らを疲れさせただけになってしまった。なんなんだよもー!
大きくため息を吐くと、若干疲れを見せるなまけものが提案を出す。
「はぁ・・・、もうちょい休憩していくか?」
体力的には不要だが、精神的な休憩は欲しい。しかしもしカイザーさんがリコさんからの用事なりなんなりを終えて戻ってきた場合を考えるとその選択は出来なかった。
「いや、あの人が戻ってきたら面倒だ。とりあえず入ろうか」
「分かった。は~ぁ、まさか入る前からクソトラップ仕掛けてくるとかこのダンジョンやってくれるぜ」
「回避できないのをトラップとは言わない。ありゃクソ強制イベントだ」
「ははっ、確かに」
そしてようやくダンジョンへと足を踏み入れる。
ここのダンジョンは洞窟内に建造した遺跡のようだ。全体的に石を積んで作られており、等間隔で石像が置かれている。所々壁画もありどこか古代遺跡を感じさせるような適当な絵が描かれている。
「なんかよくあるような感じの遺跡だな」
「変に個性だしてもしょうがないでしょ。基本見つけてもらう気のないところに作ってるんだから」
「確かにな・・・。となると逆に凝ってるのか?」
「どうだろうか?」
そんなことを言いながら、奥へと進んでいく。今のところは直線の一本道で特に罠は無い。
周囲も特に変わらないが、ダンジョン全体の光量を減らして薄暗いのと、静か過ぎるのと、等間隔で置かれている照明用の松明を持った不気味な石像がホラー感を出してくる。
「・・・じょじょに暗くなってきてるな」
「言われてみれば・・・。じゃあちょいと拝借」
なまけものは石像に刺さっていた松明を複数引き抜き、1本を僕に咥えさせる。そして自身は両手に持った。
なるほど、僕らが光源を持てばいいのか。いい手だ。
「ツイン松明!」
しかし関心は意味の分からないポーズで消された。
「ダサい」
「ツインファイヤー!」
「ダサッ熱っ!?」
「ふふふ、どうよツインファイヤーの威力は・・・」
「目潰しファイア!」
「うぉおおお!? それはダメなやつだぞ!!」
思いっきり松明を突き刺したのだが、なまけものは転がるように回避した。
ちっ、外したか。
「ばかやってないで行くよ。こんなことしてたら朝になるじゃん」
「まぁ良いじゃんか。のんびり行こうぜ? なぁ?」
「まぁそうだな・・・ん? どうかした?」
なまけものは笑った顔のまま、固まっている。視線は僕・・・ではない。その後ろだ。
何となくヤバそうな雰囲気を察する。
「・・・ヤバい?」
大きく頷くなまけもの。僕は頷く直前、首が少し上がったと同時に走り出した。
直後、後ろから足音ではあり得ない轟音と振動が起こる。
何だと思い、松明を咥えていた首を後ろに向けて照らす。
「うぇえ!!?」
流石にびびった。
見えたのは陸上選手の如きフォームで追いかけてくる石像の姿だった。表情の無い顔が完全にこちらをロックオンしている。あれほど激しく走っているにも関わらず不自然なほど全く動かなないその無表情は最早ホラーと言っていい。
流石に直視し続けるのは怖いので、前だけを見る事にした。
「もっと急げ! 追いつかれるぞ」
走った僕にタイミングよく乗ったなまけものが、背中をペシペシ叩く。
「そう言うのなら、攻撃して少しでも相手の動き止めてくれ!」
「そうしたいが流石に3体はやるだけ無駄だな」
「え?」
再度後ろを見る。
なまけものの言葉通り、いつのまにか石像は3体へと増えていた。
次回更新は3日後の予定です