353. 逃げつつ戦ってみた⑥
追いつかれる前にすぐさま降りる準備を始める。
「・・・おい、マジでこれで行くのか?」
「この方法しか入らないし諦めろ。ちゃんと咥えるから」
「喋って落としましたはなしだからな!」
「話す用の口あるから大丈夫だって」
穴の面積自体は大きいが、横方向に広く縦方向は狭い。なので入れないことは無いのだが入ると首を上げることも出来ないし、翼を大きく羽ばたかせることも出来ない。当然背中になまけものが乗るのは不可能だ。
「身を低くしたらいけなくね?」
「そのなんちゃって羽取ればね」
「取れるかちくしょー!!」
というわけで、なまけものには先に飛び降りてもらう。僕はそのなまけものの頭を咥えつつ続いて下りる。
羽ばたかせることは出来ない以上ゆっくり降下は不可能なので、そのまま落下して飛べるところを探すのだ。
飛べそうな広い空間が無かった場合はそのままオアシスへ直行になる。
「死ぬの嫌なんだが?」
「僕もだよ。はよ行け、追いつかれる」
索敵の左頭には迫ってくる4人が見える。
なまけものもそれは分かっているのだろうが、なかなか飛ばない。穴の中が真っ暗だから普通の崖よりも怖いのだろう。
「はよーー」
「わーってるよ。行くよ! 行くから押すーー」
押した。というよりも僕がなまけものを咥えたまま飛んだ。飛んだ直後、僕の居た場所に火が広がる。
危なかったが、今はそれに気を回している余裕はない。
「うわぁああああ!」
「くっ! 重い・・・」
なまけものが小さく暴れる。その振動となまけもの本来の重量がかかり落としそうになるが、計2口で支えることで何とか保持。そのまま少し先すら見えない暗い穴の底へと落ちていく。
「うぐっ!?」
少しでも速度を落とそうと翼を動かすと壁に当たるのが厄介だ。下が見えない以上急に地面が現れてもこのままでは止まれない。
何とかして下が見えればいいのだが・・・あ!
「なまけ、『シャイン』下に向けて撃ってくれ。光源になるかも」
「ああああ、あ? なんだってぇ!!?」
「下に『シャイン』撃て!! 早く!!」
「しゃ、『シャイン』んんっ!」
なまけものの手から放たれた光が、下に向かって落ちていく。すぐに地面があるかと思ったが、『シャイン』は止まることなく飛んでって消えた。どうやら底はまだ先らしい。
「定期的に撃ってくれ!!」
「わわわ、わかったぁあ!」
それからはなまけものが定期的に『シャイン』を放って状況を確認していこう。そう話した直後、僕の側を小さい火の玉が通り過ぎた。形的に『ファイアエッジ』だろうか。
後ろを向けない為、誰の魔法か分からないが、今この状況でそれを撃ってくるやつは赤い球のアイツしかいない。
「追ってきたか!」
諦めたらいいもののどうやら相手も飛び込んできたらしい。どうやら逃がす気は無いようだ。
「し、しつこすぎだろ!!」
「なまけが煽り過ぎなんだよ! ほら次の『シャイン』」
「分かってるよ!」
なまけものが次の『シャイン』を放つ。その『シャイン』も周りを照らしながら穴の奥深くへと消えていった。
「まだ底見えねぇ!」
「いや、なまけナイス!」
一瞬照らされた際に見た。壁のない場所を。
直感で何かあると判断し、タイミングを合わせて体の向きを変えつつ翼を羽ばたかせる。そして壁のない方へ無理やり移動し始めた。もしかするとただの凹みの可能性もあったが、今回は直感が当たっていたようで、まがった先は奥へと続いている。
この穴の下に隠された感じは・・・当たりか?
次回更新は3日後の予定です