350. 逃げつつ戦ってみた③
「おいっ、もっと飛ばせ! 追いつかれるぞ」
「ええっ!? 何で!?」
相手の速度はこっちよりも遅い筈だ。なのに焦るなまけものが僕の頭を叩く。いつも後ろを確認していた右頭は、死神の大鎌を咥えているので見えないし。
仕方なしに索敵の左頭で後ろを確認。
「うおうっ!?」
至近距離から火のレーザー魔法が飛んで来た。なまけものが僕の体を掴んで体重移動をしてくれたおかげでギリギリ回避する。
同時に後ろから大きな舌打ち。音の主は当然さっきの死神だ。
「何でー!?」
「重りだったゴリラ捨てたからだろ」
「うわマジだ。乗ってない」
追って来たドラゴンにはゴリラの代わりに死神が乗っている。赤い球は死神が持っているので、どうやらゴリラだけ置き去りにされたらしい。
慌ててスピードを限界まで上げる。しかし引き離すことが出来ない。
「殺す殺す殺す・・・」
「死神めっちゃ怒ってる・・・」
「お前がふみふみするからだろ」
「えー? それが原因!?」
「それか、それ」
「あっ、これ・・・」
なまけものが奪った大鎌を指差す。チラリと死神を見て大鎌を振ってみた。目がそれを追っているところを見るにコレが原因そう。
「これっぽい。どうしよう?」
「捨てれば? ほら丁度いい所に穴あるぞ」
「速攻捨てると判断できるのは流石。僕は良心的に無理かな」
「でも死神の攻撃力削げるじゃん」
捨てた。取り返されないように思いっきり投げ捨てた。
大鎌は回転しながら穴の奥へと消えていく。
「あーーーー!!」
「投げ捨てるとは・・・ひでぇな」
「取られると意味ないじゃっとと!?」
投げ捨てる時に速度を落とした為、追い抜かれて回り込まれてしまう。慌ててブレーキ、からの睨み合い。乗っている死神が凄いこちらを睨みつけている。
「絶対殺すっ!」
「そう言われてもお前もう武器ないじゃん。素手でやるのか?」
「お前らが捨てたんだろー! 返せよ!」
「無理。というかさどのようであれ相手の戦力を削ぐのが普通だろ?」
「返してほしい? 死んだら戻ってくるだろ? ほれほれ、倒してやるからそこに座れよ」
日頃の鬱憤を晴らすかの如く、此処ぞとばかりに煽るなまけもの。流石にマナー違反で通報されそうなので、止めようとした時に事件は起きた。
「クソがぁ! あ?」
「「あ」」
シュンっと死神の手元にワープしてくる大鎌。
突然のこと過ぎてその場の全員の動きが止まる。僕となまけものは大鎌を見てから死神を見ると、死神と目が合った。
同時に死神の凶悪な笑み。そして振り上げられる大鎌。
対しなまけものは、
「ほらちゃんと返しただろ? さっさと帰れ、な?」
「帰ると思うか?」
「だそうだポンタ」
「うい」
回れ右して逃げた。
「いやいや! 何で鎌戻ってくるのさ!?」
「あれじゃね? 距離が離れ過ぎると勝手に戻ってくるシステムあるだろ?」
「あれか!」
置きっぱなしにならないように、捨てられない武器などを投げたままで一定距離離れると勝手に戻ってくるあのシステムだ。恐らく投げ捨てたあの穴が深過ぎて、一定距離を超えたのだろう。で、死神の手元に戻ってきたというわけだ。
「こんなことならちょい深めの水の中にでも沈めるべきだったよ」
「反省もいいけど追いつかれそうだぞ。もっと飛ばせ」
「なら降りろ。それか反撃してくれ!」
「追いつかれたらな」
「いやそれ遅くないか!?」
「大丈夫だ。その辺は何とかする」
焦る僕に対し冷静ななまけもの。何か案でもあるのだろうか?
「あ? あるわけないだろ? どうしていいか分からなくて考えるのやめただけだ」
「ダメじゃん!!」
お手上げだぜと言いたげなジェスチャーのなまけもの。流石に落としてやろうかと思ーー
「ん? 落とす?」
「それはやめてくれマジで」
「いや独り言だから」
回れ右した時にちらっと見えたあれが使えそうだ。
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