317.海戦してみた⑧
「じゃあ掴まってて」
「う、うん」
実を言うと、戦闘中でユウさんが乗っている時は基本最速で飛ばない。理由は単純にユウさんが落ちるから。
しっかりしがみついて貰えれば問題はないが、足だけで体を支えている、または背中に立っている状態だと確実に落ちる。なのでユウさんが上半身を起こしている状態では支障がない程度の速度に抑えていた。
「ん? 何する気だ?」
「身を屈めてるし、突っ込んで来んじゃないか? 少し距離取るか」
流石にユウさんの動きで相手も勘付く。対応出来るよう僕らから少し距離をとり始める。
離れた分だけこちらが攻撃を受けやすくなるので、彼らが動いた瞬間僕も動いた。
一気に加速し、前に居るノリタマスケとの距離を詰める。
「来たぞっ!」
「落としてやる」
当然遠距離攻撃が飛んでくる。僕は左へ少し進む方向を変更、直後彼らが方向を修正したタイミングで、体を回転させつつ、大きく螺旋を描くように彼らの頭上を通り過ぎる。一瞬ジェットコースターのスクリューゾーンを通ったような感覚を感じつつ、ノリタマスケらが向いている方向と逆の位置に移動し、そのまま・H・へ突っ込む。
「ああっ!?」
照準を外されたノリタマスケらの焦った声が聞こえる。ふふふ、スクリュー回避とでも呼ぼうかな。初めて使ったけど意外と使えそうだ。今度からどんどん取り入れて行こう。
「逃がすかっ! 『魚雷突き』」
「!? ポンタッ、あれ来る!! 左!!」
ユウさんの声で、すぐさま体2個分ほど左へ位置修正。キュイン! とすぐ横をこころんが飛んでいく。彼はそのまま飛んでいき、遠くで大きく円弧を描いUターンを始めだした。
「また戻ってくる」
「私が見て合図するわ。ポンタは逃げた二人を!」
「了解」
僕らの狙いに気付き、即座に逃げ出した・H・を追う。速度ではこちらの方が速いが、『飛翔脚』は直角に移動方向を変えられるなどの小回りが利くため、不規則に逃げ回る・H・になかなか追いつけない。
その上、
「ポンタ下!」
「!?」
さっきから1人高速で飛び回るこころんが邪魔過ぎる。回避している間に・H・との距離が離れてしまう。
「『火炎』」
「攻撃来た!」
少しでも離れないように牽制の『火炎』を撃つも、そこは( ´∀`)が指示を出して躱してくる。
そんなことを繰り返し、どんどんKASUTAROUの船の位置から離れて行く。上昇しているのも相まって船はもうかなり小さくなっている。
そして飛行ゲージもそろそろヤバい。
「ポンタ、一旦立て直しましょ」
それを知ってか、ユウさんから一度戻ったらと提案が入る。しかし飛行ゲージがヤバいのは僕だけじゃない。
それに、
「もうすぐだから」
「? 何がーー」
そろそろだ、と思った矢先、目の前で・H・が空中で何かに激突した。全く何もないように見えるが、彼らがぶつかった所だけ薄っすらと赤い斜線が見える。
戦闘範囲の境界壁だ。戦闘から離脱する気が無い場合、この境界壁からは出られない。
「やべっ、境界っ!」
「離脱すっか!?」
「おう、急げっ」
彼らは境界のことを完全に忘れていた。それは彼らが逃げ回る時に、どんどん遠くへ移動していることから気付いていないのだと確信した。なので途中から『火炎』で少しでも早く境界へ行くよう誘導していたのだ。
仮に彼らが離脱したとしても、離脱後に再度戦闘には参加できない。こちらとしては楽に相手の戦力が減るだけだ。
「ポンタッ!」
「了解」
そして慌てる彼らを見て僕の意図に気付いたユウさんが、すぐさま立ち上がり剣を抜く。僕は逃がさないよう即座に『火炎』を放った。
「『キングシールド』!」
しかし『火炎』は( ´∀`)の巨大化したシールドで防がれる。しかしこれは予想通り。もとより『火炎』で仕留めようとは思っていない、単純な目くらましだ。『火炎』と巨大化したシールドで彼らの視界が塞がれた一瞬の間に僕らは次の行動へ移る。
「あ? あいつらは?」
「上だ!」
「下だ!」
「「どっちだよ!?」」
狙い通り、『火炎』を防ぎ切った( ´∀`)と・H・が僕らを見失う。後ろから僕らの行動を見ていたこころんとノリタマスケがすぐさま居場所を伝えるが無駄だ。まさか僕らが二手に分かれているとは思うまい。
「「『火炎』」」
「「!?」」
跳躍し・H・らの上に居たユウさんと、下に回った僕が同時に放つ。直前まで僕らの居場所を見つけられなかった2人は、放った直後に炎に呑み込まれた。
次回更新は三日後の予定です