292.船の所有してみた
「カ、カヌウちゃん・・・」
結局一度も見ることなかった船の持ち主の成金(想像)を倒して戻ってきたなまけもの。そこで光となって消えるカヌウを見て、膝から崩れ落ちる。
「うわぁあああああ!」
「あの短期間でそこまで!?」
「余程タイプだったのかしら?」
明らかなオーバーリアクションだがとりあえずそっとしておこう。
しかしやはり船の主を倒せばカヌウ消える設定だったね。
恐らく持ち主を倒す、つまり船を奪う事でこの船にいた冒険者は全部消えるようになっていたようだ。じゃないとレベルの低いプレイヤーなどはハンセンに勝てず船を奪えない。
だから敵わなくても行動次第でこの船を奪えるようになっているのだろう。僕はそのことを知らずに真正面から乗り込んだせいで戦闘になってしまったけどね。
「じゃあこれで終わり?」
「終わりだね。ごめん助かった、ありがとう」
「いいわよ。最後はあれだったけど、楽しめたわ。それにこの船貰えるんでしょ?」
「その筈。その辺にある舵輪で動かせるらしいよ」
「お、じゃあ俺が動かしてきてもいいか!?」
「立ち直り早っ! ・・・まぁいいけど」
お好きにどうぞと促すと、なまけものはひゃっほぉうと舵輪を探しに走り出す。なまけものだし見つけ次第勝手に動かすだろうから後は放っておこう。
「ふぅー、疲れた」
「私も」
甲板にある要らない樽などを放り捨て、転がって休憩。船で一番広い場所だが転がると流石にちょっと狭い。
HPを確認すると、戦闘外なので徐々に回復中。しかし完全回復にはまだまだかかりそうだ。こういう時、ココアがいてくれると助かるんだがなぁ。
まぁ船旅は時間かかるだろうし、次の戦闘までには回復するだろう。
そう思いながら目を閉じると、
「あー!!」
「「!?」」
舵輪があると思われるこの船の元主が居た船室の上からなまけものが大声を上げる。何事かと思い急いで駆けつけると、なまけものは舵輪を持った状態で固まっており、微動だにしない。
「なまけ、大丈夫か?」
「もしかして罠!?」
「い、いや、それは大丈夫だが・・・」
と、その声でなまけものが振り向く。わなわなと震え、冷や汗のエフェクトが周りに飛び散る。エフェクトを付ける余裕はありそうなので取り敢えず罠ではない様だが、明らかに何か起こった様子。
「何があったの?」
「いや、・・・えーっと、その、言いにくいんだが・・・」
「まさか操縦してこの船欲しくなったとか? 言っておくけどこれは最初に見つけた僕の物だからね」
「ちょっと待って。一緒に倒したんだし、私の物でもあるんだけど」
「えー!?」
まさかの主張に困る。しかし実際ユウさん居なかったら奪えてなかったしダメとも言えない。まぁ共有だしいいか・・・。どうせ持ってても自分一人だと飛ぶ方が早いから使わない可能性高いし。
と、仕方ないなと思った矢先、
「いやすまん。俺のになっちまった」
「「!?」」
なまけものがそう言い放った。
「い、いや、違うんだ! 舵輪触ったら勝手に登録されたんだ! どうやら最初に触ったプレイヤーの物になるみたいで。あ、知ってたわけじゃない、知らないから。知ってたら触わらないしちゃんと言う!」
物凄い早口。
慌て具合から多分本当だろう。少なくともなまけものはこういうことの横取りはしない。
どうやら舵輪を触ることでそのプレイヤーの物として認識されるようだ。いまいちプレイヤーの物になる理由が分からないけど。
「譲渡は?」
「無理だった。捨てることは出来るけど、捨てたら消えるかもしれん」
つまりもうなまけもの以外の物にはならないということだ。
なんてこった・・・
次回更新は明々後日の予定です