176・ココアを落としてみた
「うーわっ、また居る」
「マジ邪魔だな。暇人どもめ」
「そうなの?」
「ずっと階段の所に居るとか暇人以外の何者でも無いだろ」
「うーん、そうかしら・・・」
遠くに見える階段の前にまた他のプレイヤーが居座っている。現在4層、階段を降りる度に彼らと戦っているのでいい加減にして欲しい。
戦いに飢えてるのか、素通りもさせて貰えない。戦いたいならさっさとかかって来ればいいのに、毎度道を塞いで煽ってくる。レベルシンクを使って自分たちが有利な状態で戦いたいらしい。
「さっさと攻撃してこいよ」と言うくせに、「じゃあそっちから攻撃すればいいだろ」と返すと、暗黙のルールを理由に攻撃してこない。道塞ぐのもルール違反だろと思うが、自分達に都合が悪いルールはスルーだ。
まぁ通報するとすぐに殴りかかってくるのであっさり返り討ちにしたが・・・
みんなレベルが低いから楽だった。
運営さん。プレイベート(プライベート)ビーチのように、ここも何とかしてくれないかな・・・
そう思いながら毎層通報を行ったよ。
で、今回もそうなるのだろうか。
「どうする? いい加減、面倒なんだが」
「私も」
「俺もだよ。仕方ない、囮使うか」
「囮?」
まさか僕1人に任せて自分達だけ先に進むとかしないよな。一瞬そんな事を考えたが、なまけものは僕を見ていない。周囲を見渡して何かを探している。
「お、来た来た」
そして1つのパーティを見つけたところでニヤリと笑う。目線の先には4人組のパーティが和気藹々としながら次の層の階段へと進んでいく所だった。
「囮ってアレ?」
「おう、他のパーティに絡んでる最中に俺らは素通りする作戦だ」
「それ、彼らに悪い気がするんだけど・・・・」
いい作戦だとは思うが、ユウさんは彼らに悪いと乗り気では無い。とはいえ戦闘は避けたいようで、どうしようかと1人悩んでいる。
その間に囮のパーティは階段のところまで行ってしまう。そして案の定絡まれ始めた。
やはりこの階層も同様か・・・。もしかしたらルールを守りスルーしてくれる階段守護者は居ないのだろうか。
取り敢えず通報しとこ。
今日何回目かわからない通報ボタンを押したとほぼ同時に、階段守護者と囮パーティのバトルが始まる。
それを見たなまけものが即座に動いた。
「よし、今のうちに移動するぞ!」
見た目で判断すると、両方とも強さ的には同じくらいな気がするので、直ぐには戦闘が終わらないだろう。しかし、早めに移動するに越したことはない。僕らはすぐさま移動を開始し何食わぬ顔で戦闘する彼らの横を通り、無事次の層へと移動できた。
5層に到着すると同時に、なまけものが大きく息を吐く。
「ふーっ、何とかクリアだな」
「やっぱり悪い気がするわね・・・」
「まぁあの調子なら負けないだろうし、大丈夫だろ」
今だ罪悪感が残るユウさんになまけものが楽観的なことを言う。確かに横を通った時、囮パーティが押していたのは見えたので大丈夫だとは思うけど。
まぁ今は戦闘なく抜けれた事を喜ぼう。
「ところでココアは?」
「ん? ・・・いねぇ」
ユウさんに言われ、なまけものが自分の肩を見る。
そこにはさっきまで乗っていたはずのココアが居ない。4層の途中までは居たのを覚えている、変わり映えにない道に飽きて寝てたからな。
ん? じゃあもしかして・・・
「落ちたのか・・・」
「寝落ちしたってこと?」
「それは意味ちょっと違う・・・ってマズい! さっさと拾わねぇと!」
慌ててなまけものが引き返す。僕らもなまけものに続き、追い抜いて4層へと戻る。階段守護者は囮パーティにやられたようで居なかった。
「どの辺かなぁ」
「とりあえず来た道戻るしかないわね」
「はぁ・・・これからは寝るとき縛らないとダメかなぁ」
「いっそなまけものの中に入れといたら? ほら骨だから骨盤の所に置いとけるんじゃない?」
「それなら頭に入れた方が落ちなさそう」
「・・・それもそうね」
遅いなまけものは放置し、早足で来た道を戻る。
基本直線で分岐も無いので道を間違えることはないし、ココアと違う道を行くことも無い。それにまだ死んだ情報は入ってきていないので4層のどこかに転がっている筈だ。
ココアが落ちたタイミングで起きるということも無いだろうしさ。
次回更新は明後日の予定です