138・ユウさんと戦ってみた
ボォッ、ボォッ!
飛んで来る火を纏った『風切』を回避するたびにそんな音が聞こえる。接近戦をする為にユウさんに向けて突撃しているのだが、『風切』が邪魔をする。
「『スケイルショット』!」
お返しとばかりに撃つが距離もありユウさんは軽々と避け、すぐに『風切』を放つ。そして僕がそれを躱して『スケイルショット』を撃つ。
さっきからそれの繰り返しだ。ユウさんが回避している間にちまちま進んではいるが、ユウさんは回避と同時に離れるので近付けた感じがしない。
「『かざき・・あ!」
もはや作業のような動作で『風切』を放とうとしたユウさんはそのまま回避を続ける。理由はさっきまでは躱された直後に攻撃を止めていた『スケイルショット』を、今回は手動で狙いを定めて撃ち続けたからだ。
「痛たたたっ」
よしっ! 当たった。
ユウさんの回避先を予測して少しずらした位置に撃ってみると、ようやくユウさんに直撃する。とはいえ1発1発は大した威力が無いので微々たるものだけど。
ユウさんの動きが止まったので、このまま撃ち続けて追加ダメージを・・・
「もうっ! チクチクする!」
と思ったが、ユウさんは回避を止めて金棒で防御しだした。『スケイルショット』は多少ばらつくが精度が良いため、命中する場所が分かれば金棒でカバーできてしまう。
狙いを少しずらしながら撃ち続けたが、ユウさんは全弾見切ってガードしている。
弾速それなりに速いのに・・・。相変わらず動体視力が凄い。
「あ、弾切れ・・・」
「そう? じゃあ私の番ね。『風切』」
飛んでこないのが分かった瞬間、また『風切』が飛んできたので慌てて避ける。ユウさん進化して『風切』の使用スピードが上がったのか、短い間隔で続けざまに飛んで来る。
これがもしボスだったらクソゲーレベルだ。
「あれ見るとさ、ユウの『剣技』ってぶっ壊れ性能だよな。記憶するだけで使い放題とかさ」
「だよね~。こっちは魔力無くなったら終わりなのにね~」
見学しているなまけものとココアの会話が聞こえてくるが、正直僕もそう思う。
ユウさん曰く剣技は使うたびに疲れるらしいが、あれだけ放っているのに全く疲れた様子が見えないし。
このまま逃げてると当たることは無いが、このままだと制限時間で終わってしまうのでそろそろ攻めよう。というかユウさんから攻めてきてくれたら楽なのに・・・
「『火球』」
このまま逃げてると当たることは無いが、制限時間で終わってしまうのでそろそろ攻めよう。僕は『火球』を躱しながら最大まで溜める。溜まった瞬間、『風切』を躱してユウさんに向けて撃つ。そしてユウさん目掛けて走り出した。
「だから効かないって言ってるでしょ」
とはいえ邪魔だと思ったのだろうユウさんは『火球』に『風切』を当てる。当たった瞬間『火球』は大きく爆ぜた。
同時に爆炎で数秒僕の視界からユウさんが消える。つまりユウさんの視界からも僕が消えた筈だ。
この間に一気にユウさんの元まで近付く。
「・・・そういう事ね」
「!?」
爆炎に突っ込んだ所で、見えない向こうからユウさんの声が聞こえた。慌てて左へと跳ぶが右後ろ脚から痛みが走る。振り向くと僕が直前まで居た場所にユウさんが立っていた。恐らく『雷斬』でカウンターを狙ったのだろう。対応が遅れていたらあの金棒でホームランされてたに違いない。
必死な僕に対し、ユウさんは余裕の表情で「避けられたか~」と呟いている。
カウンターは予想外だったが、ユウさんが近くに来てくれたのは好都合だ。この距離ならこちらの攻撃も当たる。
「『毒そーー」
「『火舞台』」
「熱っ!」
攻撃しようとしたが、ユウさんの方が行動が速かった。ユウさんを中心に一定範囲が一斉に燃え始める。範囲内に居た僕のHPはスリップダメージでどんどん削られていく。
僕は慌ててユウさんから距離を取った。
「これが『火舞台』・・・」
「そうよ。まぁ魔力を消費するみたいだからあんまり長くは持たないんだけど、近接戦はかなり有利に出来るわ」
ユウさんは僕が範囲外に移動すると『火舞台』をすぐに止めた。
どうやら『火舞台』は魔力を消費するようで、オーガ種は元々魔力が少ないようなのでそれほど長くは維持できないらしい。
とはいえさっきのペースでHP削られると、HP満タンでも1分と持たないが・・・
「さてと、じゃあ続きしよっか」
「・・・了解」
ユウさんはそう言って構えなおす。正直こちらのHPは既に限界ギリギリなのでやるだけ無駄な気がするが・・・
せめて一撃くらいはユウさんに当てたいな。
ユウさんと一定の距離のまま、ユウさんがどう動くかを考える。
この距離だと『風切』回避で近付き、ユウさんへと攻撃できるから、恐らくユウさんは『風切』を使ってこないと思う。となるとユウさんの攻撃は『雷斬』か『紋切』の2択。普通の一撃も考えられるが、それなら僕も見てから躱せるしその選択は無いと思う。
先手をとる場合なら『雷斬』、そうじゃないなら『紋切』を使うだろう。ただ・・・もし『風切』を使ってきたのなら近付いてきた僕にカウンターで『紋切』を使ってくる筈。
もし『雷斬』なら声を聞いた瞬間に回避でギリ避けれるかもしれないし、そのまま背後に回ったユウさんを攻撃する。こちらの攻撃待ちなら、近付いて『紋切』を誘発させた後に攻撃だ。『風切』を使った場合も同じ行こう。
・・・さて、どう来るか。
「・・・『風切』」
『風切』だった。もしもと予想はしていたので斜め前に跳んで回避、そしてそのまま2発目が来る前にユウさんへと近付く。『紋切』は射程に入った瞬間使ってくるだろうから、声を聞いた瞬間後ろに下がって攻撃後に『毒双斬』で攻撃だ。
「『毒双ーー」
「! 『紋切』」
来たっ!
ワザとスキルを途中まで言った瞬間、ユウさんは『紋切』を使ってきた。早めに使って来たので射程ギリギリで一旦止まり、技終わりにユウさんへ向けて跳んだ。
「『毒双斬』!」
「『火舞台』」
『火舞台』?
予想してなかったスキルに一瞬疑問に思う。しかし今回はもうスキルを発動した後だ。このままだとダメージを負ってしまうので、『毒双斬』でユウさんを吹き飛ばすしか無い。
幸い『火舞台』では『毒双斬』をガード出来なーー
ガキィィン!
何かにぶつかり両前足が痺れる。明らかにユウさんに当たった感触ではない。
当たれば吹き飛んでる筈だし、HPも減るはずなのにそれはない。僕は自身の両前足を見た。
左前足は金棒、右前足はロイゼンの剣ファルコンで受け止められていた。やられた、思うと同時に僕は『火舞台』の上に着地する。すぐに残りHPは消えた。
「私の勝ち」
頭に3位とついた僕にふふっ、とユウさんが笑った。
次回更新は明後日の予定です