123・洞窟の奥に着いてみた
調査隊は運良く僕とは違う方向へと進んでいったので、その間にまだの道を探索する。ただ迷路のこの洞窟内では何処で鉢合わせするか分からないのでまだ安心は出来ない。鉢合わせしたら死ぬ。
「何だよレベル48とか・・・、勝てる訳ないじゃん。いやまぁ死ぬのは確実だけどさ」
どうせ時間切れになると死ぬ。とはいえまだ30分近く残ってるので今すぐ死ぬのは勘弁だ。
僕はぶちぶちと文句を垂れ流しながら魔晶石を食べる。
「って、また分岐か・・・ヤバッ!」
分岐先に明かりが見えたので慌てて来た道を戻って隠れる。直後調査隊一行が分岐位置に現れた。
『また分岐か・・・』
『濃いのはどっちだ?』
『あっちです。そろそろ近いですね』
『魔物もいねぇなぁ・・・』
『居ないならいいじゃないですか。戦うの面倒ですし』
『最近狩りしてねぇから体鈍ってんだよ』
『まぁこの辺の魔物は弱いから運動にちょうどいいのは分かるが、油断はするなよ?』
『分かってるよ、リーダー』
僕は狩りの獲物か・・・
確かに山エリアの適正レベルに対して彼らのレベルは高過ぎる。恐らく僕のようにたまたま入ったプレイヤーが戦えば確実に負けるようになっているのだろう。もしアレで苛ついて攻撃すれば負ける。
レベル差は分かっているので煽りには乗らない。
「というかあいつら何の調査に来てるんだ?」
さっきから彼らは唯一の女性隊員が手に持った光る水晶を見ながら移動している。魔力が濃いとかどうとか言ってるし、近いとかも言ってる。何かを探しているか?
「・・・ついてってみよう」
僕がまだ進んでいない道へと歩き始めた調査隊の後ろを僕はついていく。彼らは腰の剣すら抜かずズンズンと進み、後ろなど気にしないのでついて行くのは楽だった。明かりもあるので歩きやすい。問題は彼らが道中の魔晶石を取っていくことくらいか。まぁ食べてる時間も無いし放置されても食べれないけど、目の前で取られるのは何か腹立つ。
『!? そ、そろそろです・・・』
『強いな・・・その角を曲がったあたりか』
それから5分程尾行していると、女性の水晶の光が強くなった。どうやら魔力が一層濃くなったようで、調査隊の雰囲気が一変する。僕には何も感じないがあの緊張感、かなりヤバそうな状況らしい。
リーダーが先行して曲がり角の先を覗き、安全を確認してから皆先へと進む。道中とは違い、それぞれが武器を手に持っている。
『・・・こりゃマズいな・・・』
『で、でけぇ・・・』
彼らが先へと進んだのを確認し、僕も曲がり角の先を覗く。角の先は大きな広場となっており、光が差し込んでいる。天井が崩れているのでそこから光が差し込んでいるようだ。そして差し込んだ光が映すのは大きなドラゴンだった。
魔物だがプレイヤーでは無い。血溜まりの中に横たわっており、遠目でも既に事切れているのは分かる。恐らくオブジェクトの一種だろう。
『魔力量から予想はしてましたが、ドラゴンとは・・・』
『ど、どうしますか? リーダー』
『どうもこうもどうしようもない。このまま朽ちるのを待つしかないな』
『しかし、ドラゴンの血は魔物を強化します。もしここに魔物が来れば・・・』
『分かっている! 上に報告して当分の間この洞窟入口付近に魔物が近づかないようにするしかない。おい、急いで戻るぞ』
『『『了解』』』
「げ!? ヤバッ」
調査隊の一行が急に戻って来始めたので、慌てて逃げる。すぐさま分岐路まで戻って来た道とは違う道へと逃げ込む。少しして調査隊が慌てた様子で分岐路を通り過ぎる。帰り道が分かっているのかこっちには来なかった。
「やっとどっか行ったか・・・」
やっと邪魔者は居なくなった。
安堵してすぐさまドラゴンの場所へ行く。そこには変わらずドラゴンが横たわっている。緑色の体の至る所から血を垂れ流し、鱗が周囲に散らかっている。首元には大きく引き裂かれた後があるので、それが原因で落ちて死んだ設定なのだろう。
まぁそんな背景は今どうでもいい。さっき調査隊の女性がドラゴンの血を飲めば強くなると言っていた。つまりこの血溜まりの血を飲めば強くなれる筈。
取り敢えずひと舐めしてみる。
「うぇぇ・・・まんま血の味ぃ・・・」
鉄くさい血の味がする。血だから仕方ないかも知れないがせめてトマトジュースの味にしておいて欲しかった。そしてレベルアップの通知が現れた。
「え? レベルアップ?」
どうやら強くなるとはレベルアップの事らしい。つまりこの血は経験値で飲めば飲むほど経験値が貯まるようだ。
味のせいで飲み気が無くなっているが、一気にレベルアップできるチャンスなので無理して飲む。
「うぇ・・・マズい。・・・はぁ・・何してるんだろう・・・」
溜まった血を飲むとか現実では頭おかしい行動だ。いやゲーム内でも頭おかしいか。理由が分かれば納得してもらえるだろうが、こんな行動は見られたく無いので、1人で良かったと思いながら血溜まりに頭を突っ込んで飲み続ける。
「ついでだしこれも食っておこう」
流石に全部は飲めない(飲みたくない)ので、途中で大皿程の大きさの鱗を取って食べてみる。
が、硬すぎて噛めなかった。仕方ないので、小さめの割れた鱗を食べておく。鱗の断面は鋭く、口の中で刺さって痛い。
「・・・あ~マズッ! これくらいにしておこう」
鱗を食べることによりHPのダメージを受けつつ、残り5分を切ったところで食べるのをやめた。これからは脱出のために行動を開始する。もう少しドラゴンを調べたいところだが、ギリギリまで粘って死ぬのは嫌だからな。僕はドラゴンが落ちてできたであろう光が差し込む穴へと周囲の残骸を利用して登り、無事脱出する。
ちゃんと階段になるように残骸が配置されていたところからみると、どうやらドラゴンの所まで辿り着ければそのまま出れるようになっていたようだ。
「ふぅー疲れた」
山エリアのに戻ったことを確認その場で休憩する。
5分後、タイムリミットと共に洞窟は跡形もなく消えた。それを確認して僕はオアシスへと転移する。
「一旦やめよ・・・」
早々に口の中の血の味を取りたい。オアシスに着くと同時に僕はすぐさまログアウトした。
次回更新は明後日の予定です