119・山エリアに行ってみた③
「あだっ!?」
「のわぁ! 何ーー」
「奇襲か! 避けーー」
「お前ら! だいじょーーいてぇ!」
やり方を決めて数分待っていると、4匹パーティの魔物たちが崖下の山道を通過した。
タイミングを見計らって僕から飛び降り、ユウさん、なまけもの、ココアとワンテンポずらして奇襲をかける。これは間違って同じ敵を攻撃しない為だ。
奇襲後は最初冒険者にやったのと同じ要領で『猛毒牙』で小動物っぽい魔物を噛みつき倒す。ユウさんとなまけものは一撃で倒せたようで、『アクアエッジ』を受けてよろめく残り1匹に狙いを定めた。
「『雷ーー」
「『ブラックエッジ』! っしゃあ! 俺の方が早かったな」
「・・・別に勝負なんてしてないわ」
ユウさんは【金棒】から拝借した身の丈程の金棒を担ぎ直した。ロイゼンの剣(名前はファルコンらしい)がオーガナイトの身長では短いらしく、もはや飾りとなっていたショートソードを捨てて金棒を使うことにしたらしい。金棒がオーガの見た目とマッチしていてすごい似合っている。
「重くないそれ?」
「それ程重くは感じないかな・・・。振る場合は両手じゃないとキツいけどね。さ、次準備するわよ」
ユウさんは重そうな素振りをせずに金棒を背中に担ぐと、茂みで隠した崖上までの道へ移動始める。僕となまけものはそれに続く。
「レベル上がった?」
「おう! やっぱりPKは経験値が多いな!」
行う前に聞いたが、PvP・・・というよりPKは経験値が同レベルの冒険者よりも多めに設定されている。PvP嫌いからすると、PvPを促進しているみたいに見えて嫌な感じだけどね。
「さて・・・次は誰が来るんだろな」
崖上まで戻り、「やったね」と言うココアとハイタッチしながらなまけものが呟いた。
僕は「さぁ?」と言いつつなまけものと一緒に下を歩くプレイヤーを待ち・・・
2時間後
「今日はこれくらいにしておくか」
消えていく冒険者を見てなまけものが疲れ顔で言う。といっても別に戦闘で疲れたわけじゃない、余りにも冒険者やプレイヤーが来ないので待ち疲れたのだ。
「そうね・・・」
同様に若干の疲れを感じるトーンでユウさんが返す。ユウさんも疲れているようだ。ココアは・・・あんまり疲れて無さそうだな。
「お前は疲れないのか?」
「そこそこかな。一応まだやれる」
現実時間は11時位だ。いつもならもう止めてる時間だし、レベルも丁度上がって切りがいいのでやめようかなとは思う。
「じゃあ終わるか。ココアはどうするんだ?」
「皆やめるならやめるー」
「そう? じゃあお疲れ様。先にログアウトするわね」
「お疲れ様」
「おつ~」
「お疲れ」
オアシスに戻ってユウさんが抜ける。追ってココアもログアウトした。このままなまけものもログアウトするのかと思いきや、なまけものがまだやる気らしい。
「まだやるのか?」
「ああ。ポンタもまだやるだろ?」
「いや、やめるけど?」
「マジで!? まだいいだろ?」
「いや眠いし」
しかししつこく言ってくるなまけものに負けて付き合うことにした。なまけものはどこへ行くのかと聞くと山エリアへ行くと言った。
「さっき行ったじゃん」
「レベル上げにはな。これから行くのは適正(適性)値上げにだ」
「適正(適性)値って・・・山の?」
「いや防御の。お前魔法防御弱いだろ? あの山に魔法に対する適正(適性)値を上げれるやつがあるんだよ」
「マジで!?」
それなら早く行こう。
どうやらなまけものはさっきの奇襲を行っている待機時間に調べてくれたらしい。意気揚々と山を登り、さっきの奇襲場所を通り過ぎ、目的の物を見つけたなまけものがそれを拾って見せてくれた。
「これだ」
「石!?」
見せられたのはその辺にありそうなただの石。だがその石は油を水に浮かせたような虹色の模様が所々表面に浮かんでいる。
なまけものはその石を僕の前に置きながらどういうものか説明してくれる。
「冒険者情報だとこれは魔石の一種らしくてさ、魔法・・・と言うか魔力を減衰させる効果があるらしい。これは効果が小さいから無理だが、大きいやつは粉末にして防具の塗料に混ぜることで魔法の威力を下げることが出来るらしいぞ」
「へぇ~・・・。それもネットに書いてあったのか?」
「ああ、ずっと冒険者をストーキングしている人があげてるブログに書いてあった」
「何そのプレイ」
「最初は隠密の適正(適性)値上げるためにやってたらしいんだけど、有益情報が入ってくるから続けているらしい。そのおかげか隠密特化魔物になったってこの前書いてあったな」
「ふーん・・・」
そういうのを聞くと自分はいたって普通のプレイをしていると感じる。特殊な進化して、他に同じ魔物を見ることも無いので、特別感を少し感じていたけどそうでもなかった。
「で、適正(適性)値を上げるにはその石をどうするのさ?」
「そりゃ食べるんだろな」
半分分かってて聞いたが、予想通りの答えが返ってくる。
「石なんだが・・・」
「お前なら食えるだろ?」
確かに顎とか強いから食えないことは無さそうだけど・・・
うう・・・キノコと違って、石なんて普段食わないからすごい抵抗がある。嫌々ながらとりあえず口に入れてみた。
ガリッ!
硬っ!
何とか噛み砕ける硬さだが、思った以上に硬い。まぁ石だし硬くて当然なんだけど・・・。
こりゃ飲み込んだ方がいいかもしれない。
「お、うめぇ」
凄い不味そうな顔をしてるであろう僕の横でなまけものが一つの赤い花を摘んで口にする。それは最初の奇襲の時に目印としていた花だった。
「それは何?」
「これか? 魔力アップの花、森エリアにあった花の上位版みたいなもん。あっちは無味だったのにこれいい感じに甘くて美味いわ」
「それは・・・嫌がらせか?」
味以前の問題の物を齧ってる僕に対する嫌がらせだろうか? いやそうに違いない。わざわざ目の前で美味そうに食べているのがその証拠だ。
腹立ったので、なまけものに向かって石を吐き出してやった。
「いてっ!! いやいや、俺はこれ目当てだったから!!」
慌てたなまけものがガード体勢を取りつつ、2撃目、3撃目を躱す。
どうやら元々この花を調べていたらしく、その途中で魔石について知ったらしい。で、1人で行くのも何だからと僕を強引に誘ったのだそうだ。
1人で行けよと思うが、この石は今の僕に必要そうなので文句は止めておいた。
「口直しに食うか?」
「いやいい、魔力アップの花と魔力の威力を下げる石・・・両方食べると相殺されそうな気がする」
「それもそうだな」
その後僕は石を飲み込み続けた。
そして気持ち悪くなってやめた。
次回更新は明後日の予定です