115・決闘してみた②
「『ツイン・サイクロン』!」
「・・・範囲魔法か」
『ウィンドエッジ』では当たらないと分かったのだろう、いきなり大技に変わった。2つの大きな竜巻が左右に発生し、近づいてくる。
こういう時は前進して躱す。後ろに下がってもいいけど、移動できる距離が少ないので逃げ場が無くなるかもしれないからだ。
『ツイン・サイクロン』は範囲こそ大きいが、動きが遅いので躱すのは簡単だった。
「これくらいなら・・・!? わっ、たっ」
避ける方向を読まれていたのか、『ウィンドエッジ』が目の前まで迫ってきていた。右にへ転がるように躱して一息つく。
「チッ! 避けたか」
「これくらいなら、まぁ・・・」
本音で言えば結構やばかったが。
『ツイン・サイクロン』の騒音で『ウィンドエッジ』を唱えた声が聞こえなかったので反応が遅れた。恐らくいつもなら当たっていただろう。今は攻撃を意識していないのでギリ躱せた。
「思ったより動けるな・・・。仕方ない『ウィンディ』」
カイザーさんは自身の前に風を集め出した。攻撃だと思って構えているが、一向に集まってくる風は飛んでこない。
それどころか、集まった風は一定の大きさになった所で弾け飛ぶ。失敗かと一瞬思ったが、そもそもスキル発動で失敗なんてなったことない。
答えはすぐに分かった。
「げ!?」
そこには全身緑色のカイザーさんが飛んでいた。カイザーさんの体色が変わったわけではなく、緑色のカイザーさんが1体増えている。どうやらさっきのスキルは、あの緑色のカイザーさん・・・偽カイザーを呼び出すための物だったらしい。
「うーわ・・・どうしよう・・・」
正直困った。
大抵のゲームで分身を出してくるボスは、分身がボスと同じ動きをする。それで考えると、あの偽カイザーもカイザーさんと同じ攻撃をしてくるはずだ。
問題はあの偽カイザーはカイザーが操作しているのかどうか、攻撃のタイミングは一緒なのかどうかだ。個々で自由に動き回り、多方向から時間差で攻撃されたら・・・
うん、終わり。
偽カイザーは、少し飛び回った後、僕に狙いをつけて、魔法を撃ってきた。面倒なことに魔法名を言わずに発動させてくる。
「マジか!?」
「ははは、ビビってるな。言っておくけどそいつのステータスは俺と同じだ。さてどうする?」
「どうするもこうするも・・・それどころじゃないっすよ!」
高い所で笑うカイザーさん。偽カイザーはその間も止めることなく攻撃を仕掛けてくる。恐らくCPUの操作なのだろうが、狙いが正確でカイザーさんより避けにくい。特にこっちの避ける先を予測して撃ってくるのは本当に無理。
まともには当たらないが、ちょこちょこダメージが入っていく。
ガスッ!!
「げふっ!?」
「おいおい、俺を忘れるなよ?」
カイザーさんが撃った『ウィンドエッジ』が頭に直撃したらしい。元々魔法攻撃に弱いので、一気にHPを削られる。初歩魔法でのこのダメージには嘘だろと言いたい。
「あ、もう無理だわ・・」
ちょこちょこ入っていたダメージと合わせて残りHPが風前の灯火だ。恐らく突かれただけで負けるほどしかない。
「勝ったな」
「そうでーーん?」
「ん? あ!」
勝ちを確信するカイザーさんをよそ目に、偽カイザーが僕に突っ込んできた。恐らく魔法を使わなくても倒せるとAIが判断したのだろう、真正面から突撃してくる。
「・・・『毒斬』」
「いでっ!?」
なので当たる直前にカウンターの要領でその顔めがけて『毒斬』のアッパーを繰り出す。クリーンヒットしたような感触と共に、突撃してきた偽カイザーはあらぬ方向へと吹き飛び消滅する。
同時に、遠くに居たカイザーさんのHPが半分ほど減った。どうやら分身が死んだときにダメージが入る仕様らしい。
そして同時に僕のHPも0になった。カウンター時に相手の嘴が当たりダメージが入ったようだ。ちょっとスキルを使うのが遅かったようだ。
「負けたか・・・」
ふぅ・・と息を吐いて、目の前に出てきた[LOSE]の文字を見る。まぁ元々負け戦なのでそれほど悔しくないが・・・。遠距離攻撃が無いので、魔法使い相手だと一方的な戦闘になってしまう。
「ちょっと鍛えるか・・・」
とりあえずレベルを上げつつ、次の進化を急ぐか。
まずはレベル30を目指すか。
次回更新は明後日の予定です