110・実家帰り①
柳 優美 (ユウ)視点
~土曜日 朝~
「よお、優美。久しぶりだな」
「毎日一回は職場へ覗きに来るくせに、何が久しぶりよ・・・」
寮の駐車場入口で待っていると、待ち人の兄が片手を上げで歩いてくる。
正直面倒だが今日は実家に帰る予定だ。電車で帰ろうかとも思ったのだが、兄が乗ってけと言うので乗せてもらうことにした。
まぁ帰る理由が兄のせいなので、むしろ私から乗せろと言ってもよかったかもしれないけど。
全く・・・、今日は土曜だから竹くんに乗せてもらって買い物に行く予定だったのに。まぁ必要最低限必要な物は竹くんにお願いしておいたから大丈夫だけど・・・。
今度竹くんにお礼しないとね。
「何だばれてたのか」
「減給されても知らないわよ」
この兄、柳翔太は私と同じ会社の企画部に所属している。私の部署とは離れているはずなのに毎日必ず1回は覗きにくる。あんなので仕事は大丈夫なのかしら?
「それは大丈夫だ! 俺は企画部のーー」
「はいはい、「エース」って言いたいんでしょ。でも分からないわよ? あまりに鬱陶しいから、部長に言っておいたし」
「何してんの!?」
「あとお父さんにも言っておいた」
「何してんのぉお!!?」
目の前で青い顔になる兄。勿論ウソじゃないので家に帰って怒られたらいいし、会社でも怒られたらいい。流石に毎日顔を見るのは鬱陶しすぎる。
「あれ、翔くんどうしたの? 兄弟喧嘩?」
「え?」
私の後ろから急に声がして振り返る。そこには私より少し背が高い美人が気合入れた服装で立っており、海外でも行くのかと言わんばかりのキャリーバッグを持っていた。
そして知った顔だった。
「明石さん?」
「やっほぅ、やなっちゃん。昨日ぶりだね」
明石さんは庶務課所属で、柊さんの教育係だ。MWRもやっているので、柊さん経由で何度か話をすることもある。昨日も一緒に昼食を食べた。
美人な上、しっかりしたお姉さんって感じで、私の教育係曰く私の部署でも人気があるらしい。
因みにやなっちゃんは柊さんが呼ぶのを真似ているだけだ。
「え!? 明石さん何ですか?」
「そうよ~。これから宜しくね。あ、私のことはお義姉ちゃんって呼んでくれていいからね」
「きゅ、急にはちょっと・・・」
まさかの相手に動揺してしまう。
今日は兄の婚約者を両親や兄弟に紹介する為に帰るのだ。つまり明石さんが兄の相手ということが信じられない。このシスコンで鬱陶しいだけの兄さんの何処が良いのだろう。
あまりの衝撃に次の言葉が出てこない。
「・・・おい、そこまで驚かなくてもいいだろ・・・」
「だ、だって・・・。兄さんには有り得なさ過ぎて・・・」
もしかして弱みでも握って・・・
「そんなことしてないぞ! のどかちゃんとは同期でゲームの趣味が合って付き合ったって言っただろ?」
「そうだけど・・・」
「本当?」っと明石さんを見る。明石さんは少し考えてから・・・
「そうだっけ? 凄い口説かれた記憶はあるけど・・・。ゲームの趣味を知ったのも付き合ってからだし」
「・・・・・」
「ちょ!? のどかちゃん、それダメ!! 優美の俺に対する好感度が下がるから」
どうやら嘘が織り込まれてたらしい。まぁ兄さんが見栄のために嘘を織り込むのはよくあることなので気にしない。
それに好感度はこの程度で下がることはない。既に0ギリギリなのであってないようなものだから。
「とりあえずさっさと車取ってきて。家に着くのが遅れるでしょ」
「・・・はい」
いい加減、荷物が重たいから。
次回更新は明後日の予定です




