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 きっかけはjoymuジョイミュというアプリからだった。

 音楽が好きで、大学時代は軽音楽部でギターを演奏していた。決してうまくはなかったが、下手でもなかったので、それなりにバンドに誘ってもらう事は出来た。いつ思い返しても楽しい時間だった。

 そんな思い出の時代に手にしたエレキとアコギのマイギター。それは一人暮らしの今も私の手元にある。バンドで弾くような機会はすっかりなくなったが、人前でギターを弾く事の楽しさを覚えてしまった私は、何かそれに代わるような場所がないかと思い続けてきた。


 そんな時にjoymuを見つけた。

 演奏や歌、なんでも短い録音時間の中で手軽に楽しめるアプリ。私はそこでギターを弾き始めた。

 久しぶりにちゃんと曲を弾こうと思ったら、思いのほかに指が固くなってしまっていた事に驚いた。継続は力なりと言うがまさにその通りだという事を身体で感じた。

 やり方はよく分からなかったが、とりあえず自分の一番好きな曲を録音した。

 投稿して間もなく、自分のあげた演奏に評価が付いた。クラップという拍手を意味する機能があり、これは所謂SNSでよくある「いいね」と同じ意味だ。


 投稿初日、私のサウンドにクラップは3つついた。

 素直に嬉しかった。日頃仕事をしていて褒められる事などほとんどない。二十八にもなって日常的に褒められる事がある方がまあ異常だと思うが、なにせ評価してもらえた事を嬉しく感じた。

 それから私は気が向くままにサウンドを上げ続けた。ギターを弾く楽しさを思い出し、いろんな曲を弾いた。サウンドを気に入ってくれた人が、私をフォローするようになってくれた。弾くばかりでなく、他の人があげているサウンドを聞いて回ったりもした。所詮暇つぶし程度のアプリだと思っていたが、プロ並みにレベルの高い人達がいる事に驚いた。

 そうやって投稿を重ねながら、私はネットの中で音楽を通じての繋がりが生まれていった。


『KEYさんのギター、ほんと綺麗ですね!』


 そんなふうにコメントをもらえる事も多くなった。味気のない日常に、少しばかり色がついたような気がした。

 すっかりjoymuにはまってしまった私は、そこからTwitterでも繋がるようになった。大抵の人間は本名ではなく、ネット上の名前を使っていた。それに倣い、私もKEY名義でアカウントを新たに取った。どんな人間がいるかも分からない場所で、さすがに素性を大っぴらにして活動する事は憚られた。それに、あくまでこれはリアルからの息抜きに過ぎない。そんな所で、素性を明かす必要などない。

 そうして、私は二十八にしてネットの世界に居場所をつくった。



『死にたい』



 思えば繋がってしまった頃から、彼女はそう呟いていた。


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