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 現実世界では、中小企業の事務員として日々を過ごす毎日。

 やりがいも面白味もない。特段難しい仕事があるわけでもなく、繁忙期でもなければ少々暇を持て余してしまう程度の業務。


「青石さん、これお願い」


 今日も渡された伝票を打ち込み、請求書をつくる。こんなものにやりがいを見つける事の方が難しいだろう。

 でも、不満には思っていなかった。私なんかでもこなせる程度の仕事もそうだし、ほぼ定時で上がれるから自分の時間をゆっくり満喫する事も出来る。その分給料は少ないが、バランスという意味では十分だと思っている。だから不満とは少し違う。


 二十八。

 女性としては焦る年齢だ。焦るべき年齢だ。

 一人暮らしのアパートに帰り、部屋着に着替える。お気に入りの抹茶オレの粉末をコップに入れ、お湯を注ぐ。ソファに沈み、抹茶オレをずずっとすすった。


 全然焦ってない。

 焦っていない事に焦りを感じる事すらない。

 

 『あんたはどっか俯瞰で冷めてるからね』


 親や友達から、そんなふうによく言われてきた。

 私の人生なのだから、私のペースで世界を見てゆっくり歩いていいではないか。結婚していく級友達を見送る時も、私の心は波立つことはなかった。


 パソコンの電源をつける。

 Facebookやinstagram。自ら発信する事もなくなったSNS。でも日課になってしまうととりあえず見回る程度に開いてしまう。

 友達がどこかの見知らぬ友達とはしゃいでいる写真。”#いつ会っても変わらない阿吽の呼吸”なんて長ったらしいタグが役立つ日なんて、いつ訪れるのだろう。

 スマホを開き、Twitterを見る。リアルのアカウントは今も存在しているが、もう見る事もなくなった。私はいつも通りネットの人格のアカウントを開く。


 KEY。読み方はそのままキー。それがネット上での私の名前だ。

 由来は安直だ。アオイシ・ケイ。私のフルネーム。名前のケイをアルファベットでそのまま書くとKEIなので、それを少し変えただけだ。

 

『今日も上司の話が長すぎてうんざり。しかもそのせいで残業。やってらんね』

『もうすぐ卒業―! 早いようで長かったなぁ。大学楽しみだけど、皆と別れるのホント寂しい…ありがとうね、皆。最後まで楽しもうね!』

『なんか今日暑くね?』


 タイムラインに流れてくるそれぞれの日常。年齢も環境もバラバラ。そんな人達と繋がってお互いの現状をこうやって知る事が出来る。



『死にたい』



 そんな中、今日も彼女が呟いていた。


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