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7 凛として美しく、儚げに


 ──魔王室。


「魔王様。お気を確かにお聞きください」


「なんだい改まって。唐揚げ食べるか?」


 あぁ、だらしない。

 あまりにもだらしなさ過ぎる。


 ベッドの上で食事はするなと何度も言っているのに……。そしてこの部屋の散らかりっぷり。


 ベヒモスが無自覚にも時間を稼いでくれたのは幸いだった。もし今、勇者と一緒にこの部屋を訪れていたのなら、きっと魔王様は泣いていたことだろう。


 この好機、逃すわけにはいかない。



「勇者が魔王城に来ております」


「…………?」


 あぁ、魔王様。唐揚げを口に頬張る直前で箸が止まってしまった。


「ま、またまたぁ〜。ルー君は冗談のセンスがないなぁ〜」


「冗談などではありません。まごうことなき事実です」


「う、嘘だ!」


「本当です」


「嘘だ!」


「魔王様。お気を確かに。本当です」


「えっ。なんで。どうして? どういう展開?」


「順を追って話している時間はありません。まずは現実を受け止め、成すべきことを優先して下さい」


「あっ。あ。あ。あ。あーー!!」


 もはや言葉になっていない。

 しかしながら時間はない。魔王様にはすぐにでも御決断と御覚悟を決めていただかなければ。


「魔王様、落ち着いてください」


「おめかししないと。おめかし、おめかししないと! あっ、その前にお風呂。お風呂が先だ! あーッ、部屋の片付けもあるッ」


 バタバタとお忙しくなさって。

 致し方ありません。ここは壁ドンの出番です。


 魔王様。失礼いたします。


 〝ドンッ〟


「落ち着きなさい。魔王様ァッ‼︎」


「はぅ。…………もう寝ちゃったからまた今度って言ってきてよ。無理だよ……」


「もう手遅れです。願わくば、お泊まりさせるつもりで呼びましたので。プランBですよ魔王様。匙は投げられたのです」


「…………る、る、ルー君‼︎ どうしてそんな勝手なこと‼︎」


「話すと長くなります。端的に申し上げますと、ダメ元で勇者にお声掛けしたのです。そしたら一言「行く」と。プランBの好機と判断いたしました」


「くぅ。だとしてもプランBなんて聞いてないぞ。勇者には帰ってもらうように伝えるんだ。嫌だと言うならあれ使っちゃうからな、もう使っちゃうからな! 魔王命令だ! ルー君GOだ!」


「御託はいいから早くお風呂へ行きなさい‼︎」


「……はぅ。ま、魔王命令なのに……」


「魔王様。これは添い寝チャンスなのですよ? おわかりですか? 魔王様の夢、添い寝が叶うのですよ?」


「そ、そそそそ添い寝チャンス……?」


「ええ、そうですとも。ここで逃げて添い寝を逃すか、それとも立ち向かい添い寝を遂げるか。選びなさい魔王様‼︎」


「……わかった。行ってくる‼︎」


 〝バタンッ〟〝タタタタタタタッ〟


 まったく。世話のやける魔王様だ。


 さて、この隙に部屋の片づけをせねば!


 ◇◇


 ──5分後。


「ただいま!」


「早過ぎでしょう? ちゃんと体は洗ったのですか?」


「ゴシゴシ超特級! へへん!」


「確かに。しっかり髪も洗われてますね。ですが、そんな乱暴に洗ったらキューティクルが取れてしまうのではないですか?」


「キューティクルより、いまこの瞬間を紡ぐ!」


 ま、魔王様……なんと勇ましきこと。

 ご立派に成長されて……。さしづめ、恋の力とでも言うのでしょうか。


「魔王様の御覚悟、しかと受け取りました。それでは準備に取り掛かりましょう」


「うむ!」


 ◇◇


「おぉ! これはいけない。ツノをすっかり忘れておりました」


「勇者は付け角だって知ってるぞ。決闘中に何度か取れたからな」


「よろしい! それは好都合! 今日は付けずにいきましょう」


「へ。どうして?」


「普段と違う魔王さまになるためです」


「ふだんとちがうわたし?」


「そうです。オフな魔王様の姿をさらけ出すのです。それでいて、普段よりも美しく」


「オフなのに、美しくなれるのか?」


「なるのですよ。いいえなれます」


 魔王様はロリなので美しいとは離れた存在ですが……ロリというと怒るので。仕方ありません。


「いつも着てる部屋着のジャージでいいのか? さすがにちょっと恥ずかしいかも」


「あぁ、言葉を誤りましたね。オフと見せかけたオンです。本当にオフになってどうするのですか」


「ルー君。もっとわかりやすく頼むよ。わたしにもわかるように!」


 ゴホンッ!


「オフのような緩さを兼ね備えた攻撃的な…………オン!」


「ほ、ほう。なるほど」


「それでは魔王様、善は急げです。ほんの少しヨレたTシャツに着替えましょう」


「……え?」


「ただお洒落に着飾るだけではダメなのです。オフとは生活感。しいては緩さに繋がります」


「なるほど。緩さとはTシャツのヨレのことだな!」


「そうです!」


「さすがルー君! その着眼点は無かったぞ!」


「いえ。これしきのこと」


 ◇◇


「どうだ、着替えて来たぞ! ヨレヨレのTシャツにヨレヨレの短パンだ!」


 あぁ……なぜヨレがヨレヨレとなってしまったのか。とりあえずヨレヨレならいいと誤解なさってますね……。


「魔王様。違います。上着は上質なものを。インナーのみちょいヨレです。つまりはTシャツだけヨレていれば良いのです」


「ねえ、ルー君。思ったんだけどさ、これ趣味嗜好入ってない?」


「な、なにをおっしゃいますか。悪魔大執事、このルシファーがそのようなこと!」


「……ならいいけど。ルー君が言うことなら信じるけど」


 いささか疑われているようですね。

 ここはもうひと押し、魔王様にヨレの素晴らしさをお伝えしときましょうか。


「凛として美しく、しかし儚げに。上質な上着が凛を演出し、ヨレたTシャツが儚さを演出する。この黄金比、魔王様にはわかりませぬか」


「わ、わかるもん!」


「……さすがは魔王様」


「と、とーぜんなのだ!」


 これは……わかっていないですね。


 しかし、準備は整った。


 さあ、勇者よ!

 今宵は一匹の狼になりなさい!


ルー君、趣味嗜好入ってます(´-ω-`)

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