店と仮面は選びましょう
不定期過ぎる投稿に自分で何やってんだよと思った今日この頃。
書いてもこれで良いのか迷い投稿を先延ばし早二週間近く。
もう少し真面目にやります。
ログアウトまで走る練習をした翌日、ナギサはそろそろ見慣れてきた中央広場で初ログインしてくる予定の青葉を待っていた。
「……まだかな?」
しかし、約束の時間が過ぎても青葉の姿は見えず、連絡もない。リアルで何かあったのかと心配していた。
「やっほー! ナギさん」
噴水を前にウロウロしているナギサに聞き覚えのある声が掛けられる。
ナギサが後ろを向くと初期装備を身に付けた女性がいた。伸ばされた髪はサイドテールにしており、根元は青。毛先目掛けて黄緑のグラデーションが掛かっている。身長は女性にしてはかなり高く、一七〇以上あるかもしれない。
「……誰?」
「え、いや私だよ私! あ・お・ば!!」
「私の知ってる青葉の髪は青くない。それに……」
ナギサは女性の胸元を指差す。そこにはナギサが持っていないものが装備の下で存在を主張していた。
「青葉は私の仲間」
「ナギさん、ガラスのハートが抉れたんだけど……」
「抉れるガラスなんて無いし、青葉のハートは防弾性」
女性が目元に手をやるが、ナギサは全く気にせず鋭い言葉を口にした。
本物の青葉ならこれくらいで傷つく程繊細では無いと知っているからだ。
実際その通りで、貶されているにも関わらず、女性の口の端が持ち上がっている。
「……冗談はこれくらいにして、何で遅れたの?」
「いやー、キャラクリに捕まっちゃってさー。何あれ、ナギさんとの待ち合わせが無かったら後一時間は余裕で潰れてたね。特に体! 見て見てこのナイスバデー。あっ、それと、ここでの名前はアオハだからよろしく!」
「……裏切り者」
「そんな顔するんだったら、ナギさんもバストサイズ弄ればよかったのに」
アオハがジャンプする。追従して揺れるものにナギサはゲーム内で初めて殺意を覚えた。
「大丈夫。世の中には小さくても大きいのが好きな男の人がたくさんいるから。ゲームの中くらい大きくあっ、やめて蹴らないで」
「私の! 胸は! 今から!」
渚と青葉は高校二年生。一般的にこれ以上のなにがしかを求めるには難しいが、渚が諦める理由にはならない。
だからスネを蹴る。
「わーかった、分かったから」
「むー……」
これ以上は不毛な争いになるのが目に見えているので早めに降参したアオハに対し、ナギサも不満気に足を下ろした。
「あ、そう言えばナギさんなんて名前?」
「……ナギサだけど?」
「いや、CSO内の名前……もしかしてだけどリアルそのまんま?」
「うん?…うん」
「あっちゃー不味いね。ナギさん顔とか体型とか変えてないじゃん? おまけに名前も現実と一緒じゃあんまし宜しくないし……もしかしたら個人特定されるかも」
「え……」
流石のナギサもネットやゲームで身バレすることがいかに危険か位は分かる。
降って湧いた身の危険にたじろぐナギサだったが、少し考えて別に焦ることじゃないと気付いた。
「顔を隠したらいいんでしょ?」
「え、どゆこと?」
ナギサはアオハを連れて中央広場を出た。
何処へ行くのか質問するアオハをいなしつつ大通りから外れ、そのまま幾つか路地を曲がる。
人通りが薄くなり、すれ違う人も怪しげな風貌をした。正にそれっぽい感じが出ていた。
「えーと、ナギさん? ここは女の子二人で来てはいけない場所に見えるけど……」
「いいからいいから」
普段の軽口が鳴りを潜め及び腰のアオハを後ろに、ずんずん進む。
次第に怪しげな人達も少なくなって寂れた雰囲気のある地区に出た二人の前に、その空気に合わない洒落た喫茶店が姿を表した。
「到着!」
「いや違うナギさん。ここは目的地じゃないよね? なにを考えてここに来たのかじっくり聞きたいとこだけど、今は歩き続けよっか」
「何で?〚仮面喫茶〛って名前だから仮面を買えるんじゃない?」
店名を指摘したナギサに対し「だからだよ!」と心の中で叫ぶアオハ。純粋さも困り者だなと思いつつ、どう引き剥がしたものか考える。
「入ったことあるの?」
何故か小声になったアオハに疑問を覚えつつナギサは首を振り、通りの少し奥まった場所を指差した。
「あの公園で落ち……休んでいた時に珍しい名前の店だなー。って覚えてただけ」
「うん、なら大丈夫。入らなくて正解。もっとまっとうな商売している店を探そ? ここは多分……仮面売ってないから」
「でも……開いてるみたいだし……」
「いいからいいから」
さっきとは逆にナギサを引いて歩き出そうとしたアオハの前で、カランコロンとドアが開いた。
まるで狙ったかのように――実際店の中から見ていたのだが――出てきたプレイヤーはステッキをコツコツ言わせ、軽い微笑みから入った。
「こんにちわ、本日はお日柄もよく……少し陽射しが強いかも知れませんねぇ。こんなところで立ち話もなんです。見目麗しいお二方が日に焼けては世界の損失というもの。ささ、此方へ」
燕尾服、片眼鏡、シルクハット。万人がザ・紳士と言えるほどに完成されたその姿……をぶち壊すように存在する銀のベネチアンマスク。
怪しさ全開であるもののサービス開始三週間ということを考慮すればロールプレイを嗜むプレイヤーとして最高峰であり、ゲーム内で日焼けするかは別として言動もそれに見合うよう心掛けているようだ。
「名乗り遅れました。ワタクシ、ジェントル・メンと申します。本業は仮面職人。趣味で〚仮面喫茶〛を営んでおります。気軽にジェントルとでもお呼び下さい。以後よろしく」
「……カッコいい」
とナギサ。
「あっ、ダメだ」
とアオハ。
二人の頭に紳士の二文字が現れたが、それの意味するところは全く異なる。
温度差の激しい二人を前に、男性はシルクハットをクルっと回し、綺麗なお辞儀を披露した。
二十分後
カランコロンと扉が開く。
「んふふ……ジェントルさんいい人だったなー」
「見た目だけね……」
心なしかやつれ顔のアオハを伴った上機嫌のナギサは、その顔に仮面を着けていた。
【白陶面】頭部装備
付与効果
AGI+5 DEX+3
製作者
ジェントル・メン
「地味にいい装備なのがまた……」
外見はナギサの希望でジェントルと同じで、色違いの白。
防御力を上げる防具の概念を無視し、ナギサの要望を即席で叶えたジェントルはかなり腕の良い仮面職人らしい。
「ホントに紳士って感じでカッコよかったねー」
「あ、うん。ナギさんがそれなら良いんだ。うん」
店内の混沌を思い出し身震いするアオハ。
当分は会わなくていいかなと思うのだった。
戦闘は次回なのです。
要望があったら叶えるなのです