表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

ウマウマしましょう

「やっと着いた……」

無事森に到着したナギサは早速目当ての物を探し始めた。

世の中には物欲センサーなる都市伝説的なシステムがあるが、今回ナギサが探しているのはそれに引っ掛かるような珍しいものではない。

程なくしてある木の前で立ち止まり、その枝を調べる。


「みっけ!」

ナギサの引き戻した手にはミカンのようなオレンジ色の果物が握られていた。

その実をマジマジと見ながら、ナギサは反対側の手で包丁を抜く。

そして……


「えいっ!」

カンッ! と硬質な音を立てて包丁が弾かれた。

果物が異常に硬い訳ではない。寧ろナギサの手でフニフニできる程度のなので果物にしては柔らかい方だろう。

弾かれたのは包丁がこのミカンのようなオブジェクトを傷つけられない仕様だからだ。


「うー…ホントだったんだ……」

しかし、半ば予想していたナギサは驚きは少ない。

CSOを調べる内に装備としての包丁と調理用具としての包丁が別々になっているのを突き止めていたのだ。それでも諦め切れずにわざわざ確かめに来たナギサだったが、掲示板の正確性を裏付ける結果となった。


実は、やりようによっては切れないこともない。それは誰かに投擲武器として投げてもらった食材に包丁を当てること。

これなら包丁で切ることはできる。

もはや斬るになる上、その食材の耐久値如何にかによっては消えてしまうのだが。


「いーもん……包丁使わなくても料理出来るし……」

自分を納得させようとボソッと言ったナギサだったが、口を尖らした姿は全然納得しているように見えない。

暫くむーむー地面に言って徐に一歩前進する。


「……んにゃー」

目の前の木から果物をもぎ取り、次から次へとインベントリへと放り込んで行った。

無くなったら同じような木を探し、またもぐ。

何本か梯子するとインベントリは一〇〇を超える果実で埋まってしまった。


「取り敢えず、食べよ」

ストンと近くにあった倒木の上に腰を下ろすと果物を一つ取り出した。

ストレスが溜まったら食べ物で発散するのがナギサなりのストレス解消法である。

おまけにここはゲームの中。

いくら食べても太ることはない。


「いただきまーす」

皮を剥いてこれまたミカンのような中身を一つ取ると、口へ放り込んだ。


「え…美味しい!!」

これまでの落ち込みが嘘かのようにナギサは顔を輝かせた。

どうやらかなり気に入ったらしく、足をパタパタさせながら良いペースで食べる食べる。

そして残りの二房を口に含んだ時。





ナギサの体が爆発した。




「へ? え……?」

呆気に取られるナギサの目に飛び込んできたのは見覚えのある噴水。

森には無かったプレイヤー同士の話す声が聞こえる。


「もしかして……死んじゃった?」

大正解。

原因はナギサが食べた果物にあった。


【ルーレットオレンジ】

六房全てに高い回復作用があるが、内二つは即死効果も併せ持つ危険な果実。

ポーションの材料として使用可能。


βテストの時、初心者殺しとして一時期有名になったこのアイテム。

店売りのポーションより回復力があり、継続回復効果も得られるので質が悪く、大事な場面で即死したプレイヤーは数知れない。

現在は回復力の高いプレイヤー製のポーションが出回っているため見向きもされなくなった出オチアイテムだ。

因みにナギサが爆発したのは[災厄]の効果である。


「んー、どうしよ……」

アイテムの詳細を見たナギサは改めてインベントリの劇物たちに目を向け考える。

売るか捨てるかでは無く、とてもナギサらしい理由で。


「食べていいのかな?」

即ち、食べるか食べないか。

採ったものは残さず食べる主義のナギサにはこのまま捨てる選択肢は存在しない。売るにしても高値が付くとも思えない。

デスペナルティは所持金の半分と経験値を幾らか失うが、両方とも0のナギサにはペナルティは無いも同然。

よく考えてその事に気付いたナギサ。

手頃なベンチに座るとオレンジを剥き出した。


「いただきまーす!」

ナギサの体から赤いダメージエフェクトが散り、HPバーが弾けた。


「あっ、ハズレ」

しかしこの中央広場はリスポーンエリア。

HPバーはすぐに復活し、ナギサは何事も無かったかのように次のオレンジを剥き始める。

ダメージエフェクトを撒き散らしながらニコニコと何かを食べる少女。

そんな奇妙な光景が小一時間程続き、オレンジの半分がその小さな体に消えた頃。


固有(ユニーク)称号[死兵]を獲得しました』


「称号よりスキル【死なば諸共】を取得しました」


「ん? んー? 嫌な名前だけど……変なのじゃないよね?」

ナギサがステータス画面を覗く。


[死兵]

【死なば諸共】の取得。ダメージエフェクトの変化

記録が更新されるとこの称号は消失します

獲得条件

プレイヤーで最も多く死亡した者


【死なば諸共】

死亡時、低確率の即死効果を持つ煙が発生

獲得条件

[死兵]の所持


「あっ、案外まとも。でも……使いどころあるかな?」

称号はともかく、【死なば諸共】はパーティーを組んでいるときに死亡したら事故が起こりそうなスキルである。これから青葉と合流する予定のあるのでそれは不味い。

初めて要らないなと感じたナギサだったが、これから今の倍以上死ぬ予定があるためこの称号が無くなるのはかなり後になりそうだ。


「ま、どうにかなるでしょ」

難しいことは考えず、スキルの数が増えたことに喜びを見出だして、ナギサはそのままオレンジを剥き続ける。

今度は称号の効果で黒くなったダメージエフェクトと共に噴出する即死効果を持った黒煙を纏いながら。


「片手剥きー」

そして、器用な小技を身に付けつつ丁度一〇〇回目となる即死を体験すると……


固有(ユニーク)称号[ギロチン]を獲得しました』


『称号よりスキル【即死無効】を取得しました』


「あっ! まただ…ラッキー!」

そんな軽いノリで済ませて良いものでは無いが、ナギサはオレンジを食べるのを止め、ステータスを確認する。


[ギロチン]

スキル【即死無効】を取得。1日1回、死亡後通常回復アイテムによる蘇生チャンスが生まれる

獲得条件

HP満タン状態で連続一〇〇回即死効果によって死亡する


【即死無効】

即死効果を無力化する。


どれだけ耐久力と体力が高くても当たれば即死亡。

そんな攻撃を無力化出来るのはかなり大きく、対人、対モンスターどちらでも他プレイヤーより大胆な動きが出来るようになる。

反則的とも言えるこのスキルを喉から手が出るほど欲しがっているプレイヤー達を差し置いてナギサは手に入れてしまったのだ。

オレンジを美味しく食べているだけで。

しかし、当のナギサはというと。


「んー……じゃあ食べても大丈夫なんだ!」

違う。そうじゃない。

全プレイヤーから確実にツッコミが入るような言葉を口にしてオレンジを食べ進めていた。


「ごちそうさま……ふぅ」

最後の一つを食べた後お行儀よく手を合わせたナギサ。

食後の行動は決まっている。


「明日の為に、走るぞ! ……先ずは駆け足で」

青葉に笑われないために門の外へ出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 即死無効に対して「食べても大丈夫」はとっさに思ったのに「全プレイヤーから確実にツッコミが入るような言葉」を見て、有用な回復アイテムのリスクがなくなったと思ったのは駄目でしょうか? ※主人公み…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ